妥協せずに「TOMIXらしさ」を追求。
厳しい目を持つファン層をうならせる。
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トミーテック
生産技術部 商品設計課
Takuma Yamamura
山村 拓真
2014年入社
高等専門学校 機械工学科就職活動ではモノづくりに携わりたいと思い、製造業をターゲットに。特に、大きな電車を手のひらサイズで商品化するという側面に魅力を感じ、トミーテックに入社。以来、商品の外観や機構設計に従事。
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トミーテック
企画1課
Kazuki Shirai
白井 和樹
2020年入社
経済学部幼少期に手にしたプラレールを入り口に、成長にともなって鉄道模型ファンに。仕事が人生の大半を占めるなら、好きなことに関わりたいとトミーテックに入社。以来、企画部で商品企画業務に従事している。
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トミーテック
技術部 商品設計課
Takao Onodera
小野寺 貴雄
2010年入社
機械科子どものころからモノづくりが好きだったので、製造業を中心に就職活動にあたる。「われらの優良な商品で世界の市場をにぎわせよう」という理念に感銘を受けて入社。以来、商品設計担当として勤務。
Introduction
トミーテックが手掛けている鉄道模型「TOMIX」は、1976年の誕生以来、数多くのファンから支持され続けている鉄道模型のトップブランドだ。そのラインナップは、車両をはじめ、レールやジオラマ用の構造物、制御機器など、多岐にわたる。そんなTOMIXの新商品開発にあたり、こだわっている点や腐心している点を、企画担当・設計担当に語ってもらった。
対象とする鉄道利用者の様子も調査。
新商品開発のベースになるのが、企画担当者が発掘・調査してまとめたプランだ。企画部に所属する白井に、目のつけどころを聞いてみた。「多いのは、各鉄道会社が実施する新型車両導入や旧車両の引退など、メモリアルなイベントが予定されているケースですね。ただ、かつて商品化した車両を、最新技術を投入して製造し直すこともあります。肝心なのはファンにささるかどうかなので、営業担当に話を聞いたり、鉄道模型雑誌や鉄道雑誌に目を通して関心事を探ったりと、日常的に広くアンテナを張り巡らせていますよ」。ターゲットを決めると現地調査に出向いて実車両の写真撮影や資料収集にあたるが、白井が特に心がけているのは、利用者の様子や心情をつかむことだという。「特にローカル線に多いのですが、鉄道や車両が、利用者からすごく愛されているケースがあります。このような場合、さほど熱心でない鉄道模型ファンにも求心力がはたらく可能性がありますよね。利用者の様子によっても、ターゲット層の想定や売り込み方などの販売戦略が変わってきますから」
その期待に応えるのが設計担当の使命。
企画が固まって製品化が決定すると、小野寺や山村が所属する商品設計課が設計に取り掛かる。この際、各担当者がこだわるのは「どれだけ実車に忠実に再現できるか」だ。小野寺は次のようにいう。「Nゲージのスケールは150分の1ですが、単純に実車を縮小すると、違和感が出てしまうことがあります。このため、デフォルメやアレンジの必要性が生じますが、できるだけ最小限にとどめ、いかにリアルさを追求するかが課題になります」。山村が続ける。「例えば車両下部には、さまざまな機器がぶら下がるように設置されていますよね。一般の人は無関心ですが、熱心な鉄道模型ファンになると、このような部分のリアルさにも厳しい目を向けます。このため、実車が通る踏切を探し出して、側面から資料写真を撮影することもありますよ」。また、鉄道車両の顔ともいえる先頭車両の前面の再現性にも細心の注意を払うという。「CAD上で光の当たり具合をシミュレーションして、実車の陰影が再現できているかをチェックしています」
さまざまな苦労や配慮が必要になる。
先述のとおり、リアルさの追求こそがTOMIXらしさだが、それゆえの苦労も多いはずだ。それぞれ、どのような点で苦心しているのかを聞いてみた。白井は、引退して長い年月が経っている車両の商品化を挙げた。「商品化の成否のカギを握るのは、資料を充実させることですが、引退して何十年も経っていると、撮影対象を探すこと自体に苦労します。鉄道博物館や公園などで車両が展示されていないかを調べますが、どうしても見つからない場合は、参考にできる書籍を求めて図書館などに出向くこともあります。現実には見られないからこそニーズが高いという側面もあるので、避けて通れない試練ですね(笑)」。設計担当の2人は、金型課や加工課、生産技術科など、製造部門への配慮を挙げる。小野寺は次のように言う。「あまりに細部にこだわると、必要となる構成部品が小さくなり過ぎたり薄くなり過ぎたりで、量産不可能になってしまうこともあります。実現可能な範囲でリアルさを追求するというサジ加減に苦心しますね」。加えて、山村は組み立て工程への配慮も欠かせないと指摘する。「組み立て工程の9割近くは手作業です。商品のリアルさにこだわりつつも、製作にあたる人たちの負担軽減や作業効率アップにも配慮することに注力しています」
この姿勢こそがTOMIXへの支持を強固にする。
今回話を聞いた3名は、TOMIXらしさを守るだけでなく、さらなる進化・深化も見据えている。企画担当の白井は、未経験領域に踏み出すことで自身の幅を広げたいという。「これまでの私が担当した新商品開発は、すべて鉄道車両が対象でした。しかし、車両を走らせるためのレールやジオラマ用の建造物など、ラインナップの幅広さもTOMIXの魅力だと思っています。そして、鉄橋や駅舎、建造物などの商品化には、車両とは別のセンスが求められるはずです。未経験分野の商品化にも積極的に取り組んで、総合力を高めたいですね」。製造部門の職務を経験したいというのは山村だ。「先ほど触れたように、設計時には組み立て工程に配慮する必要があります。実際に経験することで、つくり手ならではの視点を養えると思うんです。そのうえで設計部門に戻り、知見を活かしたいと思っています」。そして小野寺は、基本構造の進化に想いを馳せる。「これまで開発に携わってきた商品は、形状や色が違うだけで、基本的な構造は既存パターンを踏襲しています。もちろん簡単ではありませんが、いずれは自身で新たな構造を考え出したいですね。多くの鉄道模型ファンに『ずいぶん進化したな』と感心してもらうことが目標です」