合・体その名はバトルスグリッドマン!
ランドマスターによるアシストウェポンの構築も、必殺武器のコアとなるクオーツの合成も、完了までには今しばらくの時間を必要としていた。
だが、すでにジャイガンターは富士プラントを臨む市街地へと足を踏み入れていた。
「もう時間がない……ヒカリ! あらためて君に協力を要請する!」
「もちろん!」
フリーゾンエネルギーをフルチャージしたグリッドマンは、アシストウェポンを装備できないのは覚悟の上で、ヒカリと共に出撃を決心した。
「もう一つ、頼みがある」
「えっ……」
グリッドマンの頼み──それは、実体化の際に、ヒカリのダイアテクターのメモリーに保存されている、彼女と弟が思い描いた夢のヒーロー≪シルバークラティオン≫のイメージデータを使わせて欲しいというものだった。
「あのイメージには君の想いがこもっている。誰かを守りたいと願う強い想いが! その想いが私を……私たちの肉体を、より強靭にしてくれるはずだ!」
そして、グリッドマンはヒカリに告げた。
「アクセプターでアクセスフラッシュしてくれ!」
「アクセス…フラッシュ…わかった!やってみる!」
ヒカリが頷くと、アクセプターはそれに呼応したかの様に輝きはじめ、眩い光を放ちながら新たな形態 プライマルアクセプターへと変化した。
「アクセス フラッーーーシュ!」
そう叫びながら、構えた左手のプライマルアクセプターと右手をクロスすると──
光に包まれたヒカリの体は、目の前のディスプレイ画面の中へと吸い込まれ──
コンピュータ・ワールドへと転送された。
そして、次の瞬間──グリッドマンはヒカリと一体化していた。
シルバークラティオンイメージを取り込む事によって、より堅牢堅固な、新たな姿となって!
「この姿は……そうか! あなたと私は、今からヒーローになるんだ!」
一心同体となったヒカリの想いと共に、グリッドマンは移動空間パサルートへ──シェルターから遠く富士山麓まで、幾つものポイントを経由して延びている送電ケーブル内へと突入し、現場に急行した。
「頼んだぞ、グリッドマン!」
グリッドマンに希望を託しつつ、ランドマスターもまた、アシストウェポンの構築を急いだ──。
富士山麓の市街地では──幸いにも住民の避難は完了していたが、ジャイガンターの侵攻が続いていた。
しかも貪欲なジャイガンターは、最大の獲物である富士プラントを目前にしてもなお、市街地のインフラ用フリーゾンエネルギーを搾取しようとしていた。
そして、足元に埋まるパイプラインへ向かって捕食用の触手をカメレオンの舌のようにシュッ! と伸ばした──が、その時!
「グリッドライトセイバー スラッシュッ!」
突如、現れたグリッドマンが、左手に装着したプライマルアクセプターから発生させた光の刃を振り下ろし、ジャイガンターの触手を切断した!
「グガッ!?」
ジャイガンターが驚くのも無理はない。
グリッドマンは送電ケーブルのパサルートに開かれたゲートウェイから飛び出し──ブラックホールの属性を持つジャイガンターに対抗するため、自らも疑似ブラックホールの属性を備えた超密度体の10mに満たないサイズで──実体化したのだ。
「スパークビィィィム! 超電撃キーーーック!」
プライマルアクセプターから放たれた光弾が──エネルギーを纏った右足から繰り出されるキックが──次元シールドを突破してジャイガンターの黒光りする外骨格を打ち砕く!
疑似ブラックホールの属性を兼ね備えたそれらの攻撃によって、ダメージを瞬時に再生できなくなり、苦悶の雄叫びを上げるジャイガンター!
さらにグリッドマンは、矢継ぎ早に技を繰り出し、ジャイガンターを足止めした。
だが、次の瞬間──怒りの咆哮を上げたジャイガンターが右足を大きく振り上げ──グリッドマンを踏み潰した!
一方、ランドマスターのコンピュータ・ワールドでは──緑色に輝くクオーツの合成と、必殺武器≪サンダークラッシュキャリバー≫の構築が、未だ進行中であった。
だが、その傍らでは、戦闘機型メカのモデリングが──アシストウェポン≪バトルハンガー≫の構築が、ついに完了しようとしていた。
それを確認したランドマスターは、胸の前で両手をクロスさせると──ダイアテクターを装着した姿に変身!
そして、バトルハンガーのコックピットに乗り込むや、機体を発進させ──グリッドマンから与えられたプログラムによって開いた移動空間パサルートへと突入した!
グリッドマンはジャイガンターによって踏み潰されてしまった──かに思われたが、
「グリッドォォォォォ ビームッ!」
グリッドマンを踏みつけたジャイガンターの足元から閃光がほとばしり、それによってジャイガンターの足は押し上げられ──ズズーン! バランスを崩したジャイガンターの巨体が大地に倒れ込んだ。
グリッドマンは無事であり、プライマルアクセプターから必殺のグリッドビームを放ったのだ。
だが、それも束の間──ブォォォン! 倒れたジャイガンターが極太の尻尾を振るってグリッドマンを薙ぎ払った。
たちまちグリッドマンは岩肌に叩きつけられ、さらに二発、三発とジャイガンターの容赦ない尻尾攻撃を食らった。
「ううっ……」
岩肌にめり込んだグリッドマンは身動き一つできず、その額のエネルギーランプは点滅し、エネルギー残量がわずかである事を知らせていた。
やはりジャイガンターは強敵だった。
その相手にダメージを与えるには、かなりのエネルギーを消耗せざるを得なかったのだ。
そんなグリッドマンを鋭い牙で噛み砕こうと、立ち上がったジャイガンターがグワッ! と大口を開いて迫った──その時!
突如、送電ケーブルのゲートウェイから飛び出した機影がダダダダッ! 機銃掃射でジャイガンターの牙を撃ち砕いた。
「!?」
グリッドマンが見上げると、そこには──空を舞うバトルハンガーの姿あった。
「グリッドマン! 待たせてすまない」
グリッドマンやジャイガンターと同じく、多次元宇宙交差現象の副次的効果によってバトルハンガーは実体化しており、ランドマスターはホログラムとなってコックピットに搭乗していた。
そしてランドマスターは、次元シールドの発生パターンを瞬時に予測分析し、その間隙を縫ってジャイガンターへの砲撃を続けつつ、グリッドマンに呼びかけた。
「グリッドマン、強化鎧装機動・グランドオメガグロスだ!」
「ああ!」
グリッドマンは力を振り絞って岩肌から抜け出すと、天高くジャンプ!
続けてバトルハンガーが滑空するグリッドマンに覆い被さる様なパラレル飛行態勢に入ると──ランドマスターがコンソールにコードを打ち込みながら叫んだ。
「アクセスコード──BATTLES GRIDMAN!」
次の瞬間、機首の小型戦闘機≪ボレットファイター≫が分離し──
合体モードへと移行したバトルハンガーの本体は機体を展開させ──
グリッドマンが胸の前で両腕をクロスさせると──
展開したバトルハンガーがグリッドマンの手に──足に──そして胸に──堅牢な装甲ユニットとなって次々と装着されて行き──
グリッドマンを深紅の翼を備えた鋼鉄の軍神の如き勇壮な姿へと変貌させた。
その名も──
「超神合体、バトルスグリッドマン!」
フリーゾンエネルギーで満たされたバトルハンガーと合体する事によって、一気にパワーを回復したバトルスグリッドマンは、翼のブースターを噴射して宙を舞いながら、巨大なジャイガンターに対して攻撃を開始した。
「ダブルフリーゾン・ビームキャノン! バトルス・光子カッターウイング!」
両肩のキャノンから発射された光弾が──光の刃と化した翼が──ジャイガンターの外骨格を次々と粉砕していく!
その勇猛な戦いの中──バトルスグリッドマンと一心同体になっているヒカリの意識は実感していた。
この超人の視点──この超人の挙動──自分自身が超人に──ヒーローなった、この感覚!
この感覚こそ、パイロットとダイアクロンメカの理想的なシンクロ状態!
つまりこれこそ、BIG‐AIを完成させるために探し求めていた答えだったのだ! と。
そんなヒカリの考えを裏付けるように、バトルスグリッドマンは勇猛に戦い続け、ジャイガンターを圧倒していった。
だが、劣勢だったジャイガンターが突如、その双眸を憤怒の色に染め、烈火の如き雄叫びを上げたかと思うと──その全身が脈打つように胎動し、足が──胸が──胴体が──見る見る変貌して、これまでの怪獣然とした姿から、直立した人間に近い姿へとなっていった。
バトルスグリッドマンに対抗するため、体内に溜め込んでいたフリーゾンエネルギーを開放し、より戦闘に適した≪獣神モード≫とでもいうべき形態へ変化したのだ。
しかも、その体から尻尾部分が分離し、大蛇の如き怪獣に──ジャイガンターβになって、獣神ジャイガンターと共にバトルスグリッドマンへ襲い掛かってきた!
「!」
ボレットファイターに援護されつつ、迎え撃つバトルスグリッドマン。
だが、獣神ジャイガンターの放つ次元破断光線と次元爆砕弾を雨あられと浴びて防戦一方となり──さらにジャイガンターβに巻きつかれ、動きを封じられてしまった!
「くっ!」
そんなバトルスグリッドマンを嘲笑うかのように、獣神ジャイガンターは再び富士プラントへ向かって歩き出した。
それを阻止するため、動けぬバトルスグリッドマンに代わり、ボレットファイターが後を追う。
バトルスグリッドマンもまた、必死にジャイガンターβを振りほどこうとする──が、ギリギリギリ……さらに強く締め付けられ、全く身動きできない!
しかし、その時──一方から、また別方向から、さらに四方八方から何条ものビームが奔ってきて──不意を突かれ、次元シールドを張る暇もなかったジャイガンターβの外骨格を撃ち砕いた!
「!?」
何事かと驚いたバトルスグリッドマンが見渡すと──そこには再編されたダイアクロン首都防衛隊の姿が!
態勢を立て直し、富士山麓へと駆け付けたのだ。
「ウオォォォ~~~ッ!」
バトルスグリッドマンはすかさず、締め付けを緩めたジャイガンターβを振りほどいた。
その姿に、ダイアクロン首都防衛隊の面々は目を見張った。
「あれは……月で開発中の新型か!?」
「完成していたのか!」
グリッドマンの存在を知る由もない首都防衛隊の面々は、バトルスグリッドマンをダイアバトルスの最新型モデル≪ダイアバトルスV1≫だと認識し、月からの援軍だと理解した。
そんな首都防衛隊に対し、怒りの矛先を向けるジャイガンターβ!
首都防衛隊は一斉攻撃で迎え撃つも、今度はジャイガンターβの次元シールドによって無効化されてしまう──かに思われたが、
「バリアー・ビィィィム!」
バトルスグリッドマンが放った光線によって次元シールドは相殺され、すべての攻撃が命中し、ジャイガンターβはのたうち回った。
「凄い! 敵のシールドを打ち消したぞ!」
「そこまでハイスペックなのか、ダイアバトルスV1は!」
首都防衛隊の面々が驚く中──ガシッ! ガシッ! バトルスグリッドマンは両腕に装備された万力タイプの武装≪パワーバイス≫でジャイガンターβを押さえ込むと──そのまま渾身の力でジャイガンターβを引き千切った!
「な……なんてパワーだ!」
首都防衛隊は、ただただ驚愕するばかりだった。
片や、本体から分離したジャイガンターβには次元波動振動による再生能力は無かった。
それでもなお、引き千切られた体で襲い掛かって来ようとするジャイガンターβを首都防衛隊に任せ──バトルスグリッドマンは飛翔し、獣神ジャイガンターのもとへと急いだ!
だが、時すでに遅し!
ボレットファイターの攻撃を歯牙にもかけず──
次元シールドによってダイアクロン富士プラント防衛大隊による猛攻撃をも物ともせず──
富士プラントへと到達した獣神ジャイガンターは、貯蔵タンクのフリーゾンエネルギーを貪り食い──見る見る巨大化し始めていたではないか!
そこへ飛来するや、ただちに連続攻撃を繰り出すバトルスグリッドマン!
だが、巨大化に伴い、外骨格も強化された獣神ジャイガンターには通用しない!
そればかりか、新たな頭部が二本、三本と生え、手足も同様に増殖し、より禍々しい姿となった獣神ジャイガンターが、容赦なくバトルスグリッドマンに襲い掛かってきた!
このまま獣神ジャイガンターが巨大化し続ければ、地球は消滅してしまう!
絶対に負けるわけにはいかない!
「バトルスゥゥゥ グリッドォォォ ファイヤーーーーッ!」
胸の発光体から放たれた紅蓮の炎が、一直線に獣神ジャイガンターへと向かって行く!
と、そこへ数条のビームも加わり──紅蓮の炎と共に次元シールドを突破して、獣神ジャイガンターの外骨格にダメージを与えた!
バトルスグリッドマンの奮闘を目の当たりにした富士プラント防衛大隊が、諦めずに攻撃を再開したのだ。
さらにそこへ、ジャイガンターβを倒した首都防衛隊も駆け付けた。
バトルスグリッドマンは、すかさずバリアービームを放って獣神ジャイガンターの次元シールドを無効化し──ダイアクロン連合部隊と連携して総攻撃を開始!
対する獣神ジャイガンターも次元破断光線、次元爆砕弾、さらに次元波動砲を全方位に発射して猛反撃!
両者による凄まじい攻撃の応酬が繰り広げられ──
バトルスグリッドマンとダイアクロン連合部隊は獣神ジャイガンターにダメージを負わせ続けたが──
戦いながらもフリーゾンエネルギーを吸収し続ける獣神ジャイガンターの巨大化が止む事はなかった。
だが、その渦中で──ボレットファイターのランドマスターがコンピュータ・ワールドからのシグナルを受信した。
「!」
時を同じくして、ランドマスターのコンピュータ・ワールドでは──
構築を完了したサンダークラッシュキャリバーのコア部分へ──
必要なサイズにまで合成された緑色に輝くクオーツが──
今まさに、組み込まれていた!
「グリッドマン! ついに完成したぞ!」
そう言うや、ランドマスターはコンソールにコードを打ち込みながら叫んだ。
「アクセスコード──THUNDER CRASH CALIBER!」
次の瞬間、富士プラントの送電ケーブルに開いたゲートウェイから、実体化した大剣──すなわちサンダークラッシュキャリバーが出現!
バトルスグリッドマンはサンダークラッシュキャリバーをガシッ! と手に取ると──
ブースターを全開にして獣神ジャイガンターの身の丈よりも遥か高くへ飛翔し──
背部のウイングユニットをパージして接近格闘機動モードとなり──
ウイングユニットとドッキングしたボレットファイターが見守る中──
獣神ジャイガンターに向かって、全身全霊で大剣を振り下ろした!
「ライトニング バトルス サンダーボルトーーーッ!」
緑色のクオーツが輝き──
サンダークラッシュキャリバー全体が眩い緑の光に包まれ──
次元を切り裂きながら、獣神ジャイガンターの脳天に叩き込まれた!
「グギャャャ~~~ッ!」
サンダークラッシュキャリバーが放つ逆波動光子によって獣神ジャイガンターの次元波動振動は打ち消され──
再生も叶わぬまま、その巨体を一刀両断された獣神ジャイガンターは天地を引き裂くような断末魔と共に大爆発!
が、次の瞬間、その爆発が一点に集束していき──獣神ジャイガンターは完全に消滅した!
そう──今ここに、グランドオメガクロス作戦は完了したのだ。
グリッドマンとダイアクロン連合部隊の決死の活躍によって!
戦いが終わり──ダイアクロン連合部隊と別れたバトルスグリッドマンは今、焼け野原となった東京シティを一望できる、郊外の山の頂に立っていた。
そして、その傍らに駐機しているボレットファイターのコックピットでは──ランドマスターがコードを音声入力しようとしていた。
「アクセスコードは──GRIDMAN!」
すると──バトルスグリッドマンの全身を覆っている装甲ユニットが、装着者であるグリッドマン自身の体へ吸収されていき──
それに伴ってグリッドマンが身に纏っていた新たな鎧も弾け飛び──
本来の赤を基調とした体躯となったグリッドマンは見る見る巨大化していき──
身長70mの巨人として実体化を果たした。
フリーゾンエネルギーの産物であるバトルハンガーを取り込む事によって、グリッドマンは本来の姿へと戻れたのだ。
そして同時に、一体化していたヒカリもまた、分離され──地表へと降り立った。
「ハイパーエージェントとして、君たちの協力に感謝する。ありがとう、ヒカリ。ありがとう、ランドマスター」
「これでもう、お別れか……」
「ああ……だが、まだやる事がある」
「えっ……」
戸惑うヒカリをよそに、グリッドマンは胸の発光体からフィクサービームを──世界を修復するための光線を放射した。
すると地球は──さらに月も──穏やかで温かい光に包まれていった。
その光の中で──ヒカリの左手首に装着されていたプライマルアクセプターは淡雪のように消えていき、ヒカリはグリッドマンとの別れの時が来たのを実感した。
そして、一抹の寂しさを覚えつつも、グリッドマンを見上げて、声をかけた。
「ありがとう、グリッドマン!」
エピローグ
月面・セレンゾーンのダイアクロン科学研究基地──。
ヒカリはBIG‐AIに人間の思考パターンを学ばせるため、ダイアテクターのサイバー空間にダイブしていた。
そんな彼女のいる科学研究基地は、損壊した痕跡など微塵もなく──
東京シティの人々もまた、平穏な日常を過ごしていた。
世界はグリッドマンによって修復され、一連の出来事が起こる前の状態に戻ったのだ。
それ故、ヒカリはダイアクロンメカとパイロットの最適なシンクロ状態を構築するための方法を、未だ模索中であった。
けれどそんな中、なぜかふと、自分と弟にとっての夢のヒーローである≪シルバークラティオン≫と共に戦う光景や──自分自身がシルバークラティオンとなって戦う姿を思い浮かべ──いつの間にか無意識のうちに、とあるアルゴリズムのパターンを思考入力していた。
すると次の瞬間、BIG-AIとの同期プログラムが最適化されたではないか!
それは──パイロットがダイアクロンメカの視点で物を見て、音を聞いて、手足を動かす感覚──そう、パイロット自らが人型戦闘マシンと一体化する感覚!
これこそ、パイロットとダイアクロンメカの理想的なシンクロ状態!
探し求めていた答えがついに──突然──見つかったのだ!
無論、ヒカリは知る由もなかった。
彼女が入力したのは、自らの深層意識に微かに記憶されていた、グリッドマンと一体化していた時のアルゴリズムパターンだという事を──。
そして──ヒカリは確信した。
「これで……誰もがみんな……ヒーローになれる!」
(終)