災・厄その名はジャイガンター!
突如、出現した巨大怪獣迎撃のため、ダイアクロン隊が出動した──との通信を最後に、地球との連絡は途絶えた。
巨大ヒューマノイドの出現に続く異常事態の発生に、ここ月面・セレンゾーンでは第一級警戒態勢が敷かれた。
そんな中、ヒカリは基地のスペースドックに駐機している星間兆速連絡機ダイアシャトルのコックピットに乗り込んでいた。
「この世界に於いて、私の力だけで怪獣を倒すのは困難だ。ランドマスターの協力を仰ぎたい」
ダイアテクターのデバイスを介し、グリッドマンはあらためてヒカリに協力を要請していた。
パワーが回復し、ヒカリの体を借りて実体化したとしても、怪獣に対する勝算は低い。
使命を果たすためには、自分をサポートし、時には自分と合体して強化形態にしてくれる武器やメカ──アシストウェポンが何としても必要だ。
さらに、怪獣の再生能力の源である次元波動振動を打ち消す方法も見出さなくてはならない。
ダイアテクター内のデータから、地球・マクロゾーンの守護神とでもいうべき中枢電子頭脳≪ランドマスター≫の存在を知ったグリッドマンは、ランドマスターの知恵と力を借りればアシストウェポンの構築と、次元波動振動の攻略が可能かもしれない──と判断したのだ。
たとえ巨大怪獣が相手だろうと、ダイアクロン隊ならばきっと倒せるはず──ヒカリはそう信じていた。
だけど、もしも……もしも倒せなかったら──そんな不安もよぎり、ヒカリはグリッドマンの頼みを聞き入れ、地球へ向かう事にしたのであった。
だが、その時、スペースドックの管制官がヒカリに呼びかけてきた。
「カイザキ隊員! 非常事態につき、地球への渡航は禁止されています! 許可なく発進は出来ません!」
「始末書なら後で書く!」
そう言うや、ヒカリはダイアシャトルを高速航行モードのダイアウイングへとチェンジして飛び立ち、一路、地球を目指した──。
今から数時間前──地球のメトラゾーン・東京シティの上空に突然、次元の亀裂が生じ、その向こうから不気味な咆哮と共に、全長100mの威容を誇る巨大な生物が姿を現した。
全身を硬く黒光りする外皮に覆われ、その随所に青く光る目玉の如き球体を散りばめ、恐竜の様に太くて逞しい脚と尻尾、不気味な昆虫を思わせる両腕、鋭い牙の生えた口、そして頭部には左右に広がる2本の角を有した、見るからにおどろおどろしくグロテスクな姿形をした巨大怪獣が!
巨大怪獣は自らがもたらした次元交差現象の副次的効果により、ヒカリたちの世界で実体化したのだ。
そして、地上に降り立った巨大怪獣はフリーゾンエネルギーを求めて、街を破壊しながら進撃を開始し──体の周囲に幾つもの次元ゲートを展開させて、地下に張り巡らされたパイプラインを自らの元へと転送し、フリーゾンエネルギーを貪り食っていった。
これを阻止するため、ただちにダイアクロン首都防衛隊が出撃!
逃げ惑う人々をシェルターへ避難させると、『次元巨獣ジャイガンター』と識別呼称した巨大怪獣に対し攻撃を開始した。
大型戦闘指令基地・ロボットベース大隊を中心とした首都防衛マシンチームが、それぞれの武器を一斉に発射する。
しかし、あろうことか、すべての攻撃が──無敵と謳われたロボットベースのフリーゾンビームキャノンでさえも──ジャイガンターが体の周囲に張り巡らせた次元シールドによって無効化されてしまった。
しかもそればかりか、各武器に用いられているフリーゾンエネルギーまでもがことごとく、ジャイガンターに吸収されてしまったではないか!
驚愕するダイアクロン隊に対し、今度はジャイガンターが反撃を開始した。
その全身から放たれる次元粉砕ウェーブによってダイアクロンメカの各機は機能停止に陥り、為す術を失くしたダイアクロン首都防衛隊は態勢の立て直しを余儀なくされる。
この事態に、メトラゾーンを司る巨大な中枢電子頭脳≪ランドマスター≫もまた、潜行防御モードで地下1000mにあるシェルターへと緊急避難せざるを得なかった。
立ちはだかる者のいなくなったジャイガンターは、我が物顔で東京シティを蹂躙し、フリーゾンエネルギーを食らい続けた。
それに伴い、東京シティの都市機能は完全にマヒし、コンピューターのネットワークシステムも遮断され──街は廃墟と化した。
フリーゾンエネルギーを食い尽くしたジャイガンターは、静まり返った東京シティをあとにし、西南西の方角へと進路を取り始めた。
その体に寄生していた、人間大の小型怪獣を何十匹も産み落としながら──。
一方、ヒカリの操縦するダイアウイングは地球の大気圏へ突入し、東京シティを目指して降下していた。
と、その時──眼下から、黒い雲のような塊が、こちらへ向かって急接近してきた。
が、それは雲ではなく──ジャイガンターに寄生していた小型怪獣の群れだった!
昆虫の様な手足と羽を生やした、直径2mはあろうかという大きな目玉──としか形容しようのない姿形をした≪次元寄生獣≫の群れが、ダイアウイングの動力源であるフリーゾンエネルギーを狙って襲い掛かってきたのだ。
「! なんだ、コイツら!?」
ヒカリは咄嗟に機体を回避させ、次元寄生獣の群れにミサイルを撃ち込んだ。
だが、それをものともせず、何十匹もの次元寄生獣がダイアウイングに群がり、その機体をたちまち貪り始めた。
「くっ!」
操縦不能に陥ったヒカリは、コックピットから緊急脱出して空に舞い、ダイアテクターに装備されたパラシュートを展開した。
その視線の先では、次元寄生獣が群がったままのダイアウイングが黒煙を上げながら墜落していき──そのまま地表へ激突して、次元寄生獣ごと爆発四散した。
どうにか無事に地上へ着陸したヒカリだったが、目の前に広がる廃墟を見て、愕然とするしかなかった。
「これが……東京シティ……」
と、それも束の間、遠くから激しい銃撃音が聞こえてきた。
そちらの方角へ目をやると──ダイアクロンのパワードスーツ部隊が次元寄生獣の群れと交戦中だった。
逃げ遅れた人々の救出任務にあたっているのだ。
すかさずヒカリはダイアテクターのデバイスを介し、グリッドマンに呼びかけた。
「グリッドマン! あなたの力を貸して! あの怪物どもを踏みつぶして!」
だが、グリッドマンからは意外な言葉が返ってきた。
「すまない……まだパワーが充分に回復していない。今、無理に実体化すれば、君の体に危険が及んでしまう」
「!」
期待を裏切られたヒカリは、落胆を隠せなかった。
やっぱりヒーローなんていないんだ……だったら……自分でやるしかない!
廃墟の一角に、ジャイガンターとの戦いで横転し、瓦礫に埋もれてしまったとおぼしきダイアクロン隊の輸送車を目に留めると、ヒカリはそちらへ向かって走りだした。
そして、輸送車に搭載されたパワードスーツに乗り込むと、ダイアテクターをコネクトし、フリーゾンジェネレーターを起動させた。
と、その時──ダイアテクターのデバイスからグリッドマンの声が聞こえた。
「感じる……パワーの流入を! これがフリーゾンエネルギーのパワーなのか!? このパワーがあれば、完全ではないが実体化できるはずだ!」
「えっ……」
「戦闘コードを打ち込んでくれ。アクセスコードは──GRID SUIT!」
さっきは裏切られた気がしたけど……もう一度、グリッドマンを信じてみよう!
ヒカリは入力センサーが仕込まれているダイアテクターの指先を動かして、パワードスーツのキャノピーに投影されたバーチャルキーボードにコードを打ち込んだ。
「アクセスコード──GRID SUIT!」
次の瞬間、アクセプターが眩い光を放つと、その光の粒子に包まれたパワードスーツの装甲が見る見る形を変え──どこかグリッドマンを想起させる姿へと変貌していった。
「実体化……しているのか!?」
「そうだ。君のパワードスーツと融合して!」
その言葉を裏付けるかのように、ヒカリは従来のパワードスーツとは全く異なる一体感と、湧き上がってくる力強さを感じた。
「行こう、ヒカリ!」
「ああ!」
ヒカリのパワードスーツ、いや、グリッドスーツはビームガンを手にし、背中にランチャーキャノンを装備すると、輸送車の壁を蹴破って、外へと飛び出した!
次元寄生獣の群れと交戦中のパワードスーツ部隊は苦戦を強いられていた。
ジャイガンターの時と同様に、次元寄生獣が展開する次元シールドによって、一切の攻撃が無効化されてしまっていたのだ。
けれど、そのさなか──一方から放たれた一条のビームが次元シールドをものともせずに、次元寄生獣の体を貫いた。
ビームは──こちらへ向かって駆けてくるグリッドスーツが放ったものだった。
パワードスーツに宿ったグリッドマンのエネルギーが、次元シールドを相殺したのである。
ランチャーキャノンを連射しながら近づいてきたグリッドスーツは、そのまま敵の群れの中に飛び込むと、手にしたビームガンで、次々と次元寄生獣を撃破していった。
その俊敏な動きは、ヒカリの優れた身体能力の為せる業だった。
ヒカリは高度な科学知識はもとより、ダイアクロン隊員として一通りの戦闘技術や格闘術をも身につけていたのである。
それが今、グリッドマンの力と結びついて、本領を発揮しているのだ。
その活躍を、驚愕の面持ちで見つめるパワードスーツ部隊。
なおも次元寄生獣を撃破し続けるグリッドスーツ!
だが、次の瞬間──死角から襲い掛かって来た次元寄生獣が噴出した溶解液によって、ビームガンが溶かされてしまった。
「!」
「これを使うんだ、ヒカリ!」
グリッドスーツの右手に閃光がほとばしったかと思うと──刹那! その手には斧状の武器が握られていた。
グリッドマンのエネルギーによって実体化した≪エミュレート・サンダーアックス≫だ。
すかさずヒカリはエミュレート・サンダーアックスを縦横無尽に振るって、次々と次元寄生獣を粉砕していった。
そんな激闘の中、突然、グリッドスーツ内のデバイスからグリッドマンの呟く声が聞こえた。
「誰かが……誰かが私に呼びかけている……」
「えっ、何? こんな時に!」
「呼びかけてきているのだ……ランドマスターが!」
「えっ!?」
驚きつつも、ヒカリは攻撃の手を緩めず──
エミュレート・サンダーアックスを振り回して電磁嵐を起こし──
ついに次元寄生獣の群れを一掃した。
「おかげで助かったよ。感謝する! ところで、君の所属は……」
「セレンゾーン科学研究基地所属、主任のヒカリ・カイザキです!」
「すると、そのパワードスーツは月から?」
パワードスーツ部隊の隊長は、グリッドスーツをまじまじと眺めながら尋ねてきた。
「えっ? ええ……これは開発中の試作機で……特別な任務を与えられて地球に降りたのですが……まさか、いきなり実戦投入する事になるなんて……」
グリッドマンの事を説明しようにも、理解してもらうのは容易ではないだろう……そう思ったヒカリは、それらしい説明をしてその場を取り繕った。
「それより状況を……現在の状況を教えてください!」
ヒカリの問いに対し、パワードスーツ部隊の隊長は怪獣とダイアクロン隊との激闘や、その結果について伝えた。
「ランドマスターは? ランドマスターとはコンタクトできないんですか?」
「ネットワークシステムも壊滅状態……外部からランドマスターへのアクセスは一切、不可能だ」
「そんな……」
あまりの事態の深刻さに、ヒカリは途方に暮れるしかなかった。
そんな中、パワードスーツ部隊へ市民からの救援要請が入った。
「我々は行かねばならない。君はどうする?」
「私は……任務を続行します!」
「わかった。健闘を祈る!」
そう言い残して次の現場へと向かったパワードスーツ隊を見届けつつ、ヒカリは、なおもグリッドマンへ呼びかけ続けている電波の発信源をサーチし始めた。
ランドマスターからの電波は、グリッドスーツだからこそ辛うじて受信可能なレベルの微弱な物だった。
しかし、コンタクトを試みようにもランドマスターへのアクセスは不可能。
ならば直接、ランドマスターの元へ行くしかない!
入念なサーチの末、発信源を突き止めたヒカリは、キャノピーに投影した3Dマップ上で明滅している一点を見つめた。
「ここだ。行くぞ、グリッドマン!」
「ああ!」
そして、グリッドスーツは廃墟の中へと走り出した。
ランドマスターを目指して!
(つづく)