共・闘その名はランドマスター!
ランドマスターを目指して、グリッドスーツは廃墟の中を走り続けた。
時に、瓦礫の下で助けを求める人々を救出しながら。
そうした中でヒカリは、「自分がヒーローになる」という想いが、少しは叶ったような気がした。
それも束の間──突如、半身の焼け爛れた次元寄生獣が行く手に立ちはだかった。
ダイアウイングが墜落した際、一体だけ生き残っていたのだ。
襲い来る次元寄生獣を迎え撃つグリッドスーツ!
だが、交戦中、フリーゾンエネルギーの残量がわずかである事を告げるアラートがグリッドスーツ内に鳴り響いた。
それでもヒカリは焦らずに、エミュレート・サンダーアックスを振り下ろし、どうにか次元寄生獣にとどめを刺した。
すると、その直後、グリッドスーツの装甲が光の粒子となって消滅し、元のパワードスーツへと戻っていた。
「すまない。エネルギーが尽きたようだ……」
「いいえ、大丈夫。もう着いた」
パワードスーツを脱いだヒカリが降り立ったのは──地表に穿たれた巨大なクレーター。
ジャイガンターとダイアクロン隊の激闘を物語る戦いの爪痕である。
そして、そのクレーターの中央部分の裂け目からは、今は閉鎖されている地下施設への入口が覗いていた──。
ヒカリはエレベーターシャフトのロープを伝って、地下施設を下へ下へと降下していった。
そして、最下層のフロアに辿り着くと、電波の発信源を目指して歩みを進めていった。
やがてヒカリは、とある区画の前で足を止めた。
「ここだ……」
その眼前にある扉には、『N2財団研究所 東京分室』のプレートが掲げられていた──。
『N2財団研究所 東京分室』──ここは遥か以前、マクロゾーン樹立の黎明期に、ランドマスターの基礎プログラミング開発が行われていた場所である。
そして今、研究所内の一角で、ヒカリは埃をかぶったインターフェイスの前に立っていた。
それは複数の機器が無造作にコンポジットされ、前時代のCRT型ディスプレイとアナログ入力式キーボードで構成された、いびつなインターフェイスシステムだった。
「これが電波の発信源……」
けれど、電源を入れてアクセスを試みるも、薄暗いディスプレイ画面には、人の形らしきブロックノイズがボワーッ……と浮かぶのみであった。
「ダメだ、応答しない……この端末がランドマスターと繋がってるに違いないのに」
「ならば、私が直接、コンタクトしてみよう!」
そう言うと、グリッドマンはダイアテクター内のサイバー空間を離れ、端末から伸びたケーブルに飛び込み──ケーブル内の移動空間<パサルート>を突き進んでいった。
ランドマスターが退避した地下シェルターとN2財団研究所は、ランドマスター開発当初の名残で、未だに有線ケーブルで接続されたままだった。
ランドマスターはそれを利用して、端末から電波を発信していたのだ。
そして──グリッドマンはランドマスター内のコンピュータ・ワールドへと到達した。
それと同時に、ヒカリの目の前のディスプレイ画面も明るく鮮明になり、コンピュータ・ワールドの光景が映し出された──。
ランドマスターのコンピュータ・ワールド。そこは──
光り輝くクリスタルに覆われた、メカニカルなメタルカラーの建造物が無限に建ち並ぶ都市と──
ガラス細工を思わせる草木の上を、クリスタルの小鳥が舞い飛ぶ自然が広がり──
空には水晶の雲が浮かび、宝石のように煌めく太陽からは温かい光が降り注ぐ、穏やかな世界。
そして、その一角に──クリスタルのコンソールで作業している、全身をクリスタルに覆われたメカニカルなヒューマノイドの姿があった。
「よく来てくれた……」
そう声を掛けながら、クリスタルのヒューマノイドはグリッドマンの方へと歩き出し──おもむろに胸の前で、両手を軽くクロスさせた。
するとたちまち、全身が光に包まれ──白衣を纏った精悍な青年の姿へと変わった。
「あなたが……ランドマスター?」
「ああ。今はそういう呼ばれ方もされているね」
ランドマスターはグリッドマンに話し始めた。
シェルターへ退避後、孤立状態になってしまったランドマスターであったが、小型偵察ドローンによって、地上の状況はモニターし続けていた。
そんな中、次元寄生獣と戦うグリッドスーツの姿を捉え、驚愕した。
スーツの開発データも、次元シールドを無効化する機能に関するデータも、自分のデータバンクには存在しないからだ。
しかしいずれにせよ、ジャイガンターへの対抗策として、次元シールドを攻略するためのデータを入手する必要があった。
そこで、グリッドスーツにコンタクトを試みたのだが──まさか、ハイパーエージェントなる存在が関与していようとは、さすがのランドマスターでも想定外であった。
しかも、その相手が自分に協力を求めていたとは!
無論、グリッドマンはデータの提供を惜しまなかった──が、ランドマスターはすぐさま結論に至った。
自分の演算処理能力をもってしても、ハイパーエージェントの次元シールド突破能力を解析し、ダイアクロンメカに搭載する事は、残念ながら不可能だ──と。
けれど、自分たちの目的は一緒だ。
ランドマスターは正義の志を同じくするグリッドマンに、全面的な協力を約束した。
そしてただちに、エネルギー充填装置≪バイタルフラッシャー≫でシェルターに備蓄されているフリーゾンエネルギーの、グリッドマンへのチャージが開始された。
それと同時に、コンピュータ・ワールド内のバーチャルファクトリーでは、3DCGモデリングを想起させるシステムによってアシストウェポン≪バトルハンガー≫の構築が始まっていた。
バトルハンガー──それは、月の科学研究基地で開発中の最新メカ≪ダイアバトルスV1≫の設計データをベースにした、グリッドマンのパワーサポートアーマーとなるアシストウェポンである。
さらに、ランドマスターはグリッドマンおよび東京シティでの戦闘データを解析し、ジャイガンターの再生能力の源である次元波動振動を打ち消すための最適解を算出し始めた。
そして──
「答えを導き出せたよ。≪サンダークラッシュキャリバー≫──それこそが、我々の求めているものだ」
「サンダークラッシュキャリバー?」
思わずグリッドマンは聞き返した。
「ああ。逆波動光子を放つ事によって次元波動振動を打ち消せるアシストウェポン──さしずめ必殺武器、といったところかな」
「必殺武器!」
その言葉に、グリッドマンとヒカリは勝利への希望の光が射したように感じた。
「サンダークラッシュキャリバーのコアには、超電圧をかける事で固有の振動周波数を発する特殊なクオーツが必要だ。しかし……」
「?」
ランドマスターの重々しい口調に、グリッドマンとヒカリは不安を覚えた。
そしてそれは、的中した。
「そのクオーツは……地球上には存在しない」
「!」
希望の光はたちまち、遮られたように思えた。
「どこに……どこに行けばあるんですか、そのクオーツは!?」
ヒカリは思わずディスプレイ画面へ身を乗り出し、詰め寄った。
「それに相当する物があるとすれば、この太陽系では唯一……木星の第二衛星、エウロパだ」
「木星!?」
「そう、記録によれば以前、エウロパの巨大クレーターで、未知の領域から飛来したと思われる隕石が発見された。その隕石が含有していた水晶……『緑色に発光する水晶』ならば、我々の要求に応えてくれるだろう。だが……」
たとえ木星・ジュピターゾーンのエウロパ基地と連絡が取れたとしても、その水晶を採取できる保証はどこにもない。
それに、短時間での惑星間移動を可能にする≪超速宇宙航行用フリーゾンドライブ≫も未完成のため、木星から届くまでには、地球上のフリーゾンエネルギーが全てジャイガンターに食い尽くされてしまうのは想像に難くなかった。
「エウロパ……緑に光る水晶……」
そう呟きながら、ヒカリはハッとした表情を浮かべ、首元へと手をやり──ダイアテクターの襟元から身につけているペンダントを取り出した。
そのペンダントにはめ込まれていたのは──緑色に輝く小さな水晶の欠片!
父のエウロパ土産であり、弟の形見でもある水晶の欠片であった。
「カイザキ隊員、君は幸運の女神だな」
「ああ!」
ランドマスターの言葉に、グリッドマンは力強く頷いた。
これは運命だ。
ヒカリを選んで間違いなかった。
ヒカリとの出会いは、運命に導かれたものだったのだ!
けれど、水晶の欠片は数ミリサイズであり、サンダークラッシュキャリバーへ実装するには、あまりに小さすぎた。
そこでランドマスターは、ディスプレイ画面の向こうからヒカリに指令を下した。
「カイザキ隊員、その研究所にあるスペクトル・マルチルーペで水晶の成分組成をスキャンしてくれ。そのデータを元に、私がこちらで兆速合成する!」
「了解ッ!」
ヒカリはすぐ作業に取り掛かり──
ランドマスターはアシストウェポンの構築を進め──
グリッドマンもフリーゾンエネルギーのチャージを続けつつ、ランドマスターと協力してアシストウェポンの構築を進めた。
そう、今ここに、ジャイガンターを倒すための作戦──その名も『グランドオメガクロス作戦』が発動したのである!
だが、時を同じくして──ジャイガンターは進撃を続けていた。
最大級のフリーゾンエネルギー採掘プラントがある富士山に向かって!
ランドマスターはアシストウェポンの構築を急ぐと同時に、偵察ドローンによってその様子もモニターしていた。
そして、ジャイガンターが富士プラントのフリーゾンエネルギーをすべて吸収した場合の被害をシミュレーションするが──導き出された結論は恐るべきものだった。
最悪の場合、ジャイガンターは、その体を構成する超波動フリーゾン量子と大量のフリーゾンエネルギーが結合する事によって、地球サイズ、いや、太陽系サイズにまで巨大化し──片や地球は、その反作用によって生み出されるブラックホールの如き超重力場によって原子サイズにまで凝縮され──最終的には消滅してしまうというのだ!
ダイアクロン富士プラント防衛大隊は、侵攻してくるジャイガンターに対しての迎撃態勢を整えつつあった。
しかし、東京シティでの戦いで敗北を喫したダイアクロン首都防衛隊と同様、次元シールドの攻略方法は見出せておらず、ジャイガンターを迎え撃とうにも勝算は皆無に等しかった。
その間にも、刻一刻と富士プラントへ迫っていくジャイガンター。
もはや、ヒカリたちには一刻の猶予も残されていなかった──。
(つづく)