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発売日 | 2021年10月中旬発売 |
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メーカー希望小売価格 | 4,950円(税込) |
対象年齢 | 6歳以上 |
ゾイドワイルドの
TVアニメ「ゾイドワイルドZERO」に
──新地球歴0025年、イージスバレーからほど近い場所。
乾いた空気を切り裂いて駆けていく、一体のゾイドと一台のホバーバイク。
その少し後方にはジャミンガが7,8体で群れを成し、赤い瞳を不気味に光らせて迫ってきている。
「大丈夫か、ライガー!」
ホバーバイクに乗った赤髪の少年、レオ・コンラッドは、傷ついた白いライオン種ゾイドに向けて呼びかけた。
「グルゥ……」
隣を走るライガーはレオに視線は向けず、軽く唸って応じる。
この程度の傷、お前に心配されるまでもない——ライガーがそう言っているように、レオには感じられた。
俺が廃墟を突っ切ろうとさえしなければこんなことには——レオが自分の軽率さを悔いていたそのとき、前方の岩陰から一匹のジャミンガが飛び出してきた。
「しまった、ここにもいたのか!」
レオは慌ててハンドルを切るが、バランスを崩して転げ落ちてしまう。
その隙に後方のジャミンガ達も追いつき、レオは完全に取り囲まれてしまった。
「グオォオゥ!!」
ライガーは間に割って入り、ジャミンガの群れに飛びかかっていく。
次々にジャミンガを蹴散らしていくライガー……しかし、多勢に無勢。
次第に疲労したところを手足に組み付かれ、装甲の薄い部分にジャミンガの鋭い爪が突き立てられる。
痛みに耐えながら、全身のバネを爆発させ敵を振りほどくライガー。
吹き飛ばされた衝撃で何体かのジャミンガが行動不能になり、残りは逃げていった。
戦いには勝利したが、ひどく傷ついたライガーにレオは駆け寄る。
「ライガー! ……ごめんよ、俺のせいでこんな……」
今すぐにでも修理してやりたいが、手持ちの部品ではどうにも出来ない。
レオは最低限の応急処置だけをライガーに施し、とにかく先に進むことにした。
イージスバレーの岸辺に差し掛かった頃、ライガーが何か見つけ急に立ち止まった。
レオはホバーバイクを停め、ライガーに歩み寄る。
ライガーが気にしている地面を見てみると、崖際まで車のタイヤ痕が続いていた。
「車が落ちたのかも……中に人がいたら大変だ……!」
運転手の無事を案じ、レオとライガーが谷底を覗いたその瞬間だった。
──ピシッ……ガラララッ!
ライガーの足元が重みに耐えきれず音を立てて崩れる。ライガーは即座に飛び退くも、先の戦闘でのダメージもあり反応が間に合わない。
「ライガーーっ!!」
とっさに助けようとライガーに飛びつくレオ。
しかし成すすべはなく、二人一緒に谷底へと落ちていく……。
「───っ痛ててててて……」
かなりの高所からの落下だったが、手負いとはいえさすがの身のこなしで、ライガーはなんとか谷底に着地した。振り落とされまいと必死にしがみついていたレオは、ライガーの上でほっと胸を撫でおろす。
日の当たらない谷底は昼間でも薄暗く、物寂しさを感じていると……お~い……と、かすかな人の声が耳に入ってくる。
「……おーい! 誰かいるのか……助けてくれ!」
声のする方へ向かうと、落石に埋もれ、ひしゃげた四輪駆動車が目に入る。
レオは先ほどのタイヤ痕のことを思い出して声を掛けた。
「大丈夫ですか!?」
「車体が歪んじまって出られないんだ! 少年!ゾイドと一緒なのか? 頼む、助けてくれ!」
「───ふーっ、死ぬかと思ったぜ。丸三日飲まず食わずでよ!」
レオに水筒を返しながら男は感謝を述べた。男はフリーの運び屋を営んでおり、仕事の最中、荷物を積みすぎたために車体がバランスを失い、谷底に転落してしまったのだという。
怪我も多く、左腕は折れてしまったのか動かすと激しく痛むようだったが、命に別状はなく、今は男の持っていたスパナを当て木代わりに応急処置を済ませてある。
「そうだ、名前がまだだったな……俺はバズ・カニンガム。あんたは?」
「レオ・コンラッドっていいます」
「レオか。ありがとよ、レオ! ……ところでお前さんはどうしてこんなところに?」
レオは今までの経緯を説明し、ライガーが傷つき困っていることを告げた。
「——そうか……なんとかしてやりたいとは思うが……ライオン種の修理に使えるパーツとなると、なかなか難しいかもな」
その言葉に落ち込むレオだったが、バズは何かを閃く。
「いや、待てよ……うん、力になれるかもしれねえ」
「本当ですか!?」
「ああ。そこで一つ頼みがあるんだが……俺の仕事を手伝ってくれないか?」
「え、運び屋の仕事を?」
「……実はな、俺は帝国軍のゾイド基地に荷物を届ける予定だったんだ」
民間では手に入りにくい部品でも、帝国の基地になら置いてあるだろう。無事荷物を届ける事さえできれば、軍に頼み込んでパーツを都合してもらうことも出来ると思う、とバズは語った。
「このヤマをきっかけに帝国がお得意様になってくれるかもしれねえ。俺にとってはデカい仕事でよ……とはいえ車もダメ、体がこれじゃ話にならない。おまけにこの辺りにゃ最近盗賊団が出るって話だ。今の俺一人じゃ……助けてもらった上に厚かましいとは思うが、どうか頼まれてくれないか?」
「ライガーのパーツを工面してくれるなら……! バズさん……よろしくお願いします!」
「バズでいいって……こちらこそよろしくな、レオ!」
そう言ってバズは折れていない方の右手を差し出し、二人は握手を交わした。
「はぁ~、便利なもんだなぁ」
と、バズが感嘆の声を上げる。なんとか谷底から帰還したレオ達は、谷底の荷物を引き上げている最中だった。
レオは手製のマルチツールから伸ばしたワイヤーに荷物をくくりつけ、ホバーバイクに固定して引っ張り上げていく。
ライガーは度重なるアクシデントで疲れ切って体を休めていた。
「見たことの無い工具だが……レオが作ったのか?」
「ああ、設計したのは俺だけど……作り方は父さんに教わったんだ」
行方不明になった父親が残した手帳や書物から機械工学を学んだ、とレオは話す。
「ライガーの復元や修理の知識があるのも、父さんの手帳のおかげさ」
「なんだかすごい親父さんなんだな……」
谷底から荷物を回収し終えて、レオが言う。
「さて、ここからどうしようか、バズ?」
「そうだな……車はイージスバレーの底。この大量の荷物をどうやって運ぶか……」
バズは一度に運ぶのは無理だと判断した。
幸い、少し行ったところに小さな洞窟がある。
荷物をいったんそこに隠し、少しずつ運ぶことになった。
「───サンキュー、レオ! 少し休憩しよう!」
半分ほど作業を終え、涼しい洞窟で一息つきながら、バズはふとした疑問をレオにぶつけてみた。
「なあレオ……ライガーに乗っていたなら、ジャミンガから逃げられたんじゃないか?」
どこか悩まし気な表情を浮かべてレオが答える。
「……ライガーは俺に懐いていないんだ。一緒に行動してはいるけど、ライダーとして認めてくれている訳じゃない」
「さっき俺を助けてくれたとき、お前がライガーから降りてきた様に見えたが?」
「ああ、あれはたまたま俺がライガーの上に乗っかってたってだけさ」
レオは父が失踪してしまった後、共和国領の町で暮らしていたが、あるときライガーの化石を発見。自らの手で発掘、復元する。
ライガーの持つ可能性を直感的に感じ取ったレオであったが、今のままではその力を引き出すことはできないと感じ、ライガーと共にあてのない旅に出たのだった。
「——だけど、いまだに心を開いてもらえなくって。ライガーに相応しいライダーになって、もっとあいつの力を引き出してやりたいんだけど……俺じゃ無理なのかな。今回ライガーが傷ついたのだって……俺がライガーの足を引っ張ったからなんだ」
「……そんなに、考えすぎんなよ! 大丈夫、お前もライガーもまだ若いんだからよ」
「ありがとう、バズ。……うん、そろそろ再開しようか!」
再び作業に戻り、この積み荷で最後というそのときだった。
バズは遠くから近づいてくる一団の気配に気づき、慌てて双眼鏡を取り出した。
「レオ、マズいぞ……ラプトールが5体……間違いねえ、噂の盗賊団だ!」
「どうする、バズ!?」
「荷物は……バイクに積み終えたな。よし、とにかく出せ!!」
バズが乗り込むのを待って、ホバーバイクを急発進させるレオ。
アクセルを目一杯入れるが、ラプトールの速度には及ばない。徐々に距離を詰められていく、このままでは……。
その時、少し離れた場所で休んでいたライガーが事態を察知する。
次の瞬間、ライガーは既に矢のように駆け出していた。
レオとバズを追う盗賊団のひとりが、リーダー格の男に通信を飛ばす。
「団長、後ろからゾイドが追ってきてやがるぜ!」
「なに……? おい、見たことねぇゾイドだな?まさかライオン種! あの連中のゾイドか……」
男は思わぬ援軍に焦りの色を見せたが、すぐライガーの様子がおかしいことに気づく。
「なんだ……あいつ手負いじゃねえか。やっちまえ!」
盗賊団は素早く隊列を縦に展開する。
「ギヤァーオゥ!!」
2体のラプトールが鋭い爪でライガーに襲い掛かる。
素早く身をかわそうとするライガーだが、片方のラプトールの攻撃を受けてしまう。
「どうした? 後ろが騒がしいな……」
「ライガーだ! 追ってきてくれたのか! バズ、止めてくれ! ライガーを助ける!」
「いや、しかし荷物がだな……!」
ラプトール二体を相手に手も足も出ず、ついには膝を着くライガー。
「へへっ、団長の言う通りですよ! 楽勝じゃねえか」
「もういい、足止めは十分だ。こっちに合流しろ!」
ライガーを相手していたラプトール2体も、前方の3体と合流する。
そのとき、バイクに括り付けたワイヤーが緩み積み荷が転落してしまう。
「いけねえ、荷物が!」
「俺が取りに戻る! バズはバイクを頼む!」
「え、えぇ!? おい!!」
レオはバイクから飛び降り、バズは右手一つで必死にハンドルを握る。
急いで荷物を拾い上げるレオ。だがラプトール部隊に追いつかれ囲まれてしまった。
「あー、ったくもう! 無茶しやがって!!」
慌ててハンドルを切り、レオの元へ向かうバズ。
しかし、ホバーバイクの横っ腹にラプトールの強烈な蹴りを受けて転倒してしまう。
「ぐああぁああ!!」
バイクから転げ落ちたバズ。折れている左腕に激痛が走る。
盗賊団のリーダーは、バイクをラプトールで踏みつけにしながら不敵に笑った。
「これでもう逃げられねえなぁ……ええ? おいガキ! 荷物を寄越しな」
──ガキィン!
ラプトールの鼻っ面に、レオが射出したマルチツールの先端がヒットした。
鈍い金属音が響く。
「……絶対に嫌だ! この荷物は渡さない!!」
「このガキぃ……痛い目見なきゃわからねえみてえだなァ!」
盗賊団が叫ぶとラプトールが旋回。
尾がレオの手を強打し、マルチツールが弾き飛ばされる。
レオは武器を失ったところにラプトールの強烈な蹴りを受け、数メートル先まで吹っ飛ばされた。
「荷物を置いてとっとと失せやがれ!」
「……断る!!」
間髪入れずにまた蹴りが飛んでくる。
いかにラプトールが小型ゾイドとはいえ、生身の人間が勝てるはずがない。
それでもレオは立ち上がり、立ち向かう。身をていして荷物を守る。
その度に幾度となく、ラプトールの攻撃がレオを襲った。
みるみるうちにレオの体はボロボロになっていく。
特に左腕と左わき腹からの出血がひどい。もはや立っているのがやっとの状態だ。
しかし、それでも荷物だけは、絶対に手放さなかった。
「……レオ! もういい!! 荷物なんか渡しちまえよ!!」
バズの悲痛な叫びが響く。
ラプトールがとどめを刺そうとゆっくりと歩を進めてくる。
だが、レオの目はまっすぐ前だけを見つめていた。
「死んでも渡すもんか……これが無いと、ライガーを治してあげられないんだ……!」
レオは残された力を振り絞り、ありったけの声で叫ぶ。
「ライガーは……ライガーは俺の家族だ!! 俺が絶対に、守ってやる!!!」
そのときだった。ライガーの瞳に失われかけていた光が戻り、ひと際強く輝く。
「ガルルルルルルルゥ!!!」
傷ついた体を起こし、レオの元へ走り出すライガー。
盗賊団の間を抜け、リーダーのラプトールとレオの間に割って入ると、レオに向かって力強く吠える。
「ライガー……! 俺を乗せてくれるのか……?」
ライガーもレオも、既に満身創痍のはずだ。
それなのに、お互いの体に不思議と力が湧いてくるのを感じる。
ライガーのコクピットに上り、操縦桿を握りしめるレオ。ライガーはそれを受け入れ、コクピットのハッチが展開される。まさにレオとライガーが一つとなった瞬間だった。
「ちぃっ、乗り込みやがった。お前ら!やっちまうぞ!!」
盗賊団のラプトールたちがライガーを取り囲み、攻撃を仕掛けてくる。
ライガーはそれをいなして素早く包囲を抜け、イージスバレーへ向けて走り出した。
「ライガー……そうか! よーし……いくぞ!!」
逃げ道は一つしかない——ライガーの意志がレオに伝わる。
渓谷にどんどん近づいていくが一向に速度を緩めず、むしろ速度を上げるライガー。
「レオ、ライガー……まさか……谷を飛び越える気か!?」
「うおおおおおおおお!!」
レオの叫びと共に、ライガーは力強く大地を蹴ってイージスバレーへと飛び出した。
ボロボロの体のどこにそんな力が残っていたのか、先ほどまで立っていることすら出来なかったはずのライガーが跳んで、いや、飛んでいる。
驚くべき跳躍力でイージスバレーを飛び越える……かと、その場にいた誰もが思った。
しかし現実には、ライガーは徐々に失速し、ついに谷底に転落してしまったのだった。
「レオ────────!!」
バズの叫びが渓谷にこだました。
さすがの盗賊団も谷底までは追えないと諦め、悪態をつきながら去っていく。
おそるおそる谷底をのぞき込むバズ。
そこには……立ち上がって崖上の様子をうかがう、ライガーの姿があった。
「なんだよ……チクショウ! まったく、タフなやつらだよ……!!」
すぐに助けを呼んでくるからなとバズは谷底に向かって叫ぶのであった。
───数時間後。
バズは近くを通りがかった帝国の警備兵に助けを求め、レオとライガーは無事に救助された。届けるはずだった積み荷もそのついでに引き渡すことができた。
盗賊団には帝国の警備兵たちも手を焼いていたらしく、その負い目からかライガーのパーツに関しても話が付き、この騒動は幕を閉じた。
帝国の軍用車に乗せてもらい基地に向かう最中、レオは話す。
「あの瞬間……本当にこのまま、飛んでいけそうな気がしたんだ」
「ああ……俺もなぜだか一瞬、そんな気がしちまったよ。できるわけねえのにな」
「いや……俺、ライガーと一緒にイージスバレーを越えてみたい」
「いやいや、いくらなんでもそれは……」
「でもさ、あの谷を越えられれば、運び屋の仕事だって楽になるだろ?」
「そりゃあまあ……ん? 運び屋の仕事? どうしてお前がそんなこと気にするんだ?」
「オレも運び屋を手伝うよ! そしていつか……イージスバレーを飛び越えるんだ! ライガーと一緒に!」
突然の申し出に驚きあきれるバズ。
だが、レオの瞳はどこまでもまっすぐだった。
「——お前らとは長い付き合いになりそうだぜ。改めてよろしくな、レオ」
「ああ。よろしく! バズ!」
二人は互いに怪我のひどくない方の手で、先ほどよりも一層固く、握手をするのだった。
レオは運び屋の仕事をするかたわら、運び屋の拠点に工房を作った。
自分を認めてくれたライガーとの友情の証に、イージスバレーを飛び越えるためのブースターの作成を開始したのだ。
苦労の末、レオはようやくブースターを完成させる。
「よし、装着完了! ……ライガー、似合ってるよ!」
「グァウアゥ!」
「ははっ、喜んでくれて俺も嬉しいよ。……絶対に飛び越えような、ライガー!」
「グルルルル!!」
ライガーはレオに信頼の眼差しを向けながらうなずく。
しかし、いざイージスバレー越えに挑戦してみるとブースターの問題点が見えてきた。
推進剤の量や機体との重量バランスなど、問題は山積み。
改良を重ねて何度も挑戦したが、失敗の日々が続く。
それでもレオとライガーが諦めることは、決してなかった。
───新地球歴0030年。
「これで23回目、だっけか?」
レオとライガーのイージスバレー越え、正確にはブースターを装備することなく、盗賊団から逃れるために谷を跳んだあの日を含め、24回目のチャレンジだった。
廃墟の街を助走するライガー。徐々に速度を速めている。
「……無茶しやがる」
バズは四輪駆動車のボンネットの上に立ち、嬉しそうに双眼鏡で見守っていた。
今度こそ行ける。そんな根拠のない確信が、レオの胸にはあった。イージスバレーの淵を、ライガーは力強く踏み出す。
「行っけえぇぇぇーー!!」
ブースターに火が灯り、イージスバレーの空を駆けるライガー。
その姿は、この空をどこまでも、飛んで行きそうに見えたのだった。
レオ・コンラッド
入植第二世代。共和国領で幼少期を過ごしたのち、共和国、帝国のどちらにも属さないフリーの運び屋として生計を立てる。極希少種であるライガーを擁したことで地球規模の戦いの鍵を握る数奇な運命をたどることになる。