キーワードからさがす
発売日 | 2021年7月下旬発売 |
---|---|
メーカー希望小売価格 | 4,950円(税込) |
対象年齢 | 6歳以上 |
ゾイドワイルドの
「ゾイドワイルド
TVアニメゾイドワイルドZEROに
さらに
A-Z
またZW01ワイルドライガーと
第1話は、愛機トリケラドゴス改を失ったクライブ・ディアス中佐がライオン種のゾイド・ワイルドライガーを引き継ぎ、トリケラドゴス改の仇である因縁の相手、真帝国軍のダグラス・アルドリッジと再び相見える。
新たな愛機ファングタイガーを駆るアルドリッジにディアス中佐とワイルドライガーはトリケラドゴス改の仇討ちを懸けた戦いを挑む。
青とブルーグレーに塗られたライオン種が荒野を走る。
格闘戦に秀でたライオン種のゾイド…には似つかわしくないほどの重装備。キャノンブル由来の9連キャノンに、3連装チャージミサイルが2基。そして象徴的な2門のA-Z対空速射砲。高い格闘能力を持ったゾイドへの重火力装備。それがワイルドライガー改の姿である。今まさに次作戦の展開のために移動している最中であった。
「これだけの装備で走って170Km/hで巡行。お前は本当に凄いヤツだ」
ディアス中佐がつぶやくように言う。久々の単独行軍。
「ヴォヴォゥ…」
走りながら喉を鳴らしてライガーが答えた。まだ余裕があるようだ。
───ピピッ!ピピッ!……
ガノンタス隊から応援要請が入ったのはちょうどこの時だった。真帝国軍のファングタイガーから奇襲を受けているという。
「お前の本領を発揮させてやれる機会もなかったからな……」
受領以来、支援砲撃任務ばかりが続いたワイルドライガー改。その格闘能力を発揮する機会はまだなかった。いざ、その能力を発揮するチャンスを前にディアスは柄にもなく体のこわばりを感じていた。果たして自分はライダーとしてその能力を引き出してやることができるのか?と……
「ヴォガ!」
ライガーの相槌はディアス中佐の緊張をほぐした。自信を与えたといった方がしっくりくるかもしれない。ディアスは大きく息を吸った。
「よし、ライガー!全速力だ!」
ディアス中佐が長年の愛機トリケラドゴス改をジェノスピノ戦で失ってから充てられたのがこのワイルドライガー改である。しかし一兵卒からの付き合いであったトリケラドゴス改に対してこの機体と共にした時間はあまりにも短い。
リオナム大佐から呼び出されたのはラプス島の戦いの前のことだった。大佐は共和国でも名高いエース。ゾイドとライダーが互いを信頼した末に到達するという“人騎一体”の境地に達しているとされる数少ないライダーの一人でもあった。
「お前になら託せるんじゃないかと思っている」
「リオナム大佐?それはどういう…」
一拍置いて大佐が答える
「俺もアルドリッジにやられたんだ…」
「なんですって?」
ディアス中佐は自分が呼ばれた理由がわかった。愛機トリケラドゴス改を失ったのはついこの間のこと。アルドリッジの駆るジェノスピノとの戦いによるものだった。自分はトリケラの重装甲に救われたが、胴体を真っ二つにされたトリケラはもう動くことはなかった……
「俺がやりあった時、奴はファングタイガーを駆っていた。ライガーの防御力のおかげでこうして生きて帰ってきてはいるが、もうゾイドに乗れない体になってしまった…」
そう言ってリオナム大佐はワイルドライガーの鼻を撫でてやる。その掌には親指しか残っていない。ディアスにはかける言葉がなかった。
「ヴォウン…」
ライガーが鼻を鳴らす。
「心配するな、俺がお前に託したことをコイツも理解している。」
「しかし、私は自分のゾイドを…。」
「お前も軍人ならわかるだろう?ゾイドがライダーを選べないように、ライダーもゾイドを選ぶことはできない。」
「ええ、ですが……」
「俺はこいつ以上に信頼できるゾイドを、そしてお前以上に信用できるライダーを他に知らない!ディアス、これは“命令”だ。お前たちで“奴“に勝て!」
リオナム大佐の言葉は命令には聞こえなかった。これが命令なのかはもうさして重要なことではないだろう。ライガーの視線が自分に向いているのに気づいた。
「これは、先代からの形見分けだ……」
トリケラドゴスから引き継いだA-Z対空速射砲がクレーンからおろされワイルドライガーの背部に装備される。
「これからは互いの相棒の想いを背負って戦うんだ。大佐の分もトリケラドゴスの分も……」
同じ敵にゾイドを奪われたライダーと、ライダーを奪われたゾイド。そういうめぐりあわせに意味を見出すことが賢明な判断だといえるのか?彼らはまだ用意された席に座ったに過ぎない……
「フン、手ごたえのない奴らだ…」
真帝国軍アルドリッジ少佐が吐き捨てるように言った。共和国軍のガノンタス隊は壊滅寸前まで追い込まれていた。サイズに比して強力な砲撃も、集団による陣形先戦術も彼のファングタイガーの前にはあまりにも無力だった。
「帝国がこんな雑魚どもにてこずっていたのなら、真帝国にきて正解だったな」
─────ドォン!ドォン!
ガノンタス改の砲撃が鳴り響くが 、むなしくも軽々とかわされていく。
「無駄だというのがわからんのか。雑魚は頭も悪いのだな」
アルドリッジは銃撃を加える。その攻撃はガノンタス改の装甲で防御できた。しかし乗っているライダーに衝撃は伝わる。耐え凌げるとはいえ直撃だ。騎乗するライダーの恐怖をあおるには十分だった。
「チェックメイトだ。雑魚…」
五月雨のような射撃を当てては急激に接近し、装甲の隙間を爪で狙う。擱座状態の山を気づきながら未だひとつとしてとどめを刺していない。相手をじわじわと恐怖に陥れるのを楽しむ。アルドリッジはそういう人間であった。
「ただの一度もマシンブラストを発動する機会すらないのは残念だが…」
─────ドォン!
「こんな砲撃がまだ当たると思っているのがかわいそうになってくるな… フフ、フハハハハハハ……」
─────ドォン!
「だから無駄だと…」
─────ドドドドドドドドドドギャウーン!
突然の砲弾の雨。危うく直撃を食らうところだった。アルドリッジの目つきが変わる。
「誰だ?ふざけるな?いつの間に砲撃の届くような範囲に迫ってきた?」
索敵レーダーにその存在を感知する。爆走しながらの砲撃のようだ。速い。これだけの重火力をこれだけの速度で機動させるゾイドとは一体…?モニターがようやくその姿を映し出した。ライガータイプだ。しかもこの個体、見覚えがある。
「フッ、フハハハまだ生きていたのか!この死にぞこないが!」
そのワイルドライガー改が一度打ち負かして見せたリオナム大佐の機体であることをアルドリッジは覚えていた。忘れるわけがない。彼にとって最高に気分のいい勝利を与えてくれた共和国軍の「獲物」なのだから。
「ちょうどマシンブラストを使う相手が欲しいところだったのだ」
砲撃の雨は降り続く。だがそれを避けるのは容易なことであった。擱座したガノンタスの傍に寄ればよいのだ。まだ生きているかもしれない仲間を巻き込むような砲撃を共和国軍はしないということをアルドリッジは熟知していた。
「だから、甘ちゃんなんだよ…反吐が出るっ」
一直線に向かってくるワイルドライガーに対してファングタイガーは姿勢を低く待ち構えた。
重砲撃型ゾイドではあり得ない移動速度で敵に近づき大火力を浴びせる奇襲作戦。今のところこの戦術をとれるのは共和国軍の中でもこのディアス中佐のワイルドライガーくらいのものだ。情報が少ない中でこれをかわして見せたということは敵も相当な手練れ。
「間違いない、“奴“だ!」
ワイルドライガーはファングタイガーと対峙した。
「こちらは共和国軍、ディアス中佐だ!ここは共和国の領だ!今すぐここから出ていけ!」
「ディアスだと?前のあいつはどうした?」
ディアスの呼びかけにアルドリッジの声が返ってくる。
「そうか、あの無能はお前の上官だったんだな!フフフ、フハハハハ……聞かせてやりたかったよ。まるでガキのような、あいつの喚き声をな!」
ディアスの怒りが振り切れた。
「アルドリッジ…、覚悟はできているのだろうな!!」
───グガゥルルルルル!
ワイルドライガーが叫ぶ。自身にとっても因縁の相手であることを理解していたのだ。もう近接戦闘距離まで近づいている。この至近戦では砲撃型エヴォブラストは容易に避けられてしまう。それでも因縁のアルドリッジを前に引くわけにはいかない。それはワイルドライガーも同じだろう。針の穴を通すような人騎一体の戦い方ができなければ勝算はない。
人騎一体。ゾイドとライダーが目的を共にし、共鳴することで到達する感覚。出会って間もないライガーと自分とがその高みに達するのか?いや、今なら間違いなくそこへ達する。そのディアスにはその確信があった。同じ宿命を背負ったもの同士なのだから。
「行くぞ、ワイルドライガー!!奴は間違いなく『俺たち』で打ち負かすべき相手だ!」
ライガーの爪が力強さを増して大地を蹴った。
「砲戦装備の重い体でファングタイガーを相手にできると思っているのか!馬鹿が!」
アルドリッジは血を湧き立たせた。まっすぐにライガーが突っ込んでくる。近接格闘を得意とするファングタイガーのいいカモに見えた。思わず笑みがこぼれる。正面から向かってくるライガーに向かってファングタイガーも低い姿勢から一気に駆け出した。
「兵器解放!マシンブラストォ!」
アルドリッジがマシンブラストを発動させる。背部に装備されたツインドファングが展開する。自身の勝利を信じ切っているからこそできる、この上なく美しいフォームで切りかかる。
「そこだ!装甲でいなせ!ライガー!」
ディアスがそう胸の中で叫ぶ。彼のイメージ通りの軌跡を描きライガーは跳んだ。
すれ違う2騎。ファングタイガーの刃はライガーの背にあるA-Z対空速射砲の砲身で腹を叩かれ、刃の向きを逸らされたまま、堅牢な9連キャノン砲のブレットシールドに受け止められた。これではほとんど刃が入らない。斬撃にならない。まるで打撃である。しかも薄く屈強な刃は中途半端に装甲に食い込み粘るように引っかかる。
───────ガゴギィーン
何ともいえない鈍く腹に響く衝撃がアルドリッジを、ファングタイガーを襲った。砲戦装備の大質量で突進するライガーと正面から接触したのだ。軽快俊敏を自慢とするファングタイガーが押し負けるのは至極当然のことだった。
「おのれ…こんな、出鱈目な戦い方……」
本来相手に刺さっていく分のマシンブラストの衝撃までもが自分に帰ってくる。耐Bスーツの許容値を優に超える力に思えた。口の中に血の味を感じた。
「この、俺が雑魚ライガーに負けるだと……」
体がしびれている。撤退だ。アルドリッジは逆上しやすい反面、以前よりも引き際の判断がよりも的確になっていた。それはジェノスピノでの失敗から彼が学んだ戦士としてのしたたかさと言えた。
「ファングタイガー!体制を立て直す。全速で走れ!」
決して“逃げる”とは言わないのも彼のプライド高さからくるものだ。その気位を認めているがゆえにファングタイガーもまた彼によく応えた。たった今受けたダメージからは考えられないほどの速力を発揮する。闘争心の強いサーベルタイガー種に全力での撤退行動をとらせることができる。これもまたひとつの人騎一体と言えた。
「ハンッ!やはりこの速力にはついてこれまい!」
ディアス中佐はあえてアルドリッジを追わなかった。重量級装備で走らせ、酷使したライガーの脚をいたわったからだ。だからと言ってやすやすと見逃したわけではない。大地を踏みしめ背中のA-Z対空速射砲で水平射撃の構えをとる。ディアス中佐は照準を合わせる。
「コイツの射程をなめるなよアルドリッジ…」
──ピピ!
「くらえっ!」
照準をロック。引き金を引く。
──ズダダダダダッダダダダダダダダッダ
砲撃はアルドリッジの駆るファングタイガーの右前足のアーマーをかすめた。
「うぉっ!振り切れっファングタイガー!もう少しだ!」
「当たらない、とどいているのに……」
マシンブラストを受け流した際に砲身に狂いが出たのだろう。ロックオンしているのに直撃しない。もう間もなく弾も尽きる。
──ピー、ピー、ピッ…──────
全てのセンサーからファングタイガーの姿が見えなくなった。
「逃げられたというのか…クッ……」
ディアスは気のおきどころがなかった。ライガーとの人騎一体を実現してさえ取り逃してしまった事実に苛立ちと焦燥が膨らんでいくのがわかる。行き場のない怒り。胸をかきむしりたくなる不快感……
「ありがとうございます!ディアス中佐!」
突然、無線越しに響いたハキハキとした声がディアスを我に返らせた。
「こちら、ガノンタス隊タリオ大尉。おかげで全員が助かりました!」
とどめを刺さずにもてあそぶアルドリッジの悪趣味が幸いしたというのも癪な話だが、ガノンタス隊はライダー、ゾイド共に死者を出さずに済んだ。ハッチから隊員たちが出てきて負傷者への手当や擱座した機体の応急修理をはじめようと急激にあわただしくなっていく。
ディアスは自分を恥じた。生きて戦いを終えたというのに目的を忘れ、果たせなかった復讐を嘆くばかり。仲間を労うことにすら意識が回っていなかった。
「ありがとう…ワイルドライガー……」
「ヴォウン…」
ディアスの言葉にライガーが返事を返した。
「ハハッ……本当にいいやつだな、お前は!」
ディアス中佐はシートから降りて、ワイルドライガーの鼻を撫でた。タリオ大尉が歩み寄ってくるのが見えた。陽が柔らかい。心地よい風が吹いていた。
クライブ・ディアス
共和国軍入隊以来ゾイドライダーとして頭角を現し異例のスピードで中佐に昇格。実直な性格で部下からの信頼も厚い。ジェノスピノ戦以降の重要局面における共和国軍の現場指揮官として多大な戦果を挙げていくことになる。