【第3話】

THE JUDGEMENT 後編

『コホン』
『――こほん』
ウムルの咳払いに続き、タウィルも咳払いをして、説明を始める。

『今――このWIXOSS LANDで、異世界のルリグとDIVAが……ふたつの世界線の存在が同時に存在しているこの時間――これは、“WIXOSS”という、ひと繋ぎの物語の延長なのじゃ』
『たうぃるたちは すべてを“ふかん”できる そんざい』

「WIXOSSの物語を俯瞰できる――」
思ってもいなかった情報に困惑しながらも、ピルルクは何とか理解しようと頭をフル回転させる。隣にいるヒラナの口は、小さく空いたまま塞がらない様子だ。

『今、おぬしらが開けようと――もしくは開けまいとしている扉の存在によって、ふたつの世界の存在を失うことなく保つことができているのじゃ。ピルルク達ルリグがここに来た時から、目に見えずとも常に存在していた――それが今は存在をあらわにしている状況じゃ』
『だけど そのとびらは まちがったとびら……!』

『――そう。今の扉は、“誰かよからぬ者”の願いの干渉によって出現した扉なのじゃ』
『そのせいで うぃくろすらんどは こんなにふあんていに ゆらいでしまったの』

「“誰かよからぬ者”って――この世界を壊そうとする存在がいるということ!?」
レイが不安そうな顔をして問いかける。

『うむ――そやつの本来の目的はまだよく分からない。しかし、今の扉に奴の”願い”が反映されていることは確かじゃ。そして、その扉を開ければ、ここは崩壊する。ワシらにはそれが分かる』

「開けたら崩壊する……? つまり、私達が元いた世界に戻れはしない……?」
『そういうことなの』
メルの言葉に、タウィルが答えた。

『今続けているバトルによって、マスターピースを生み出すエネルギーが溜まりつつある。しかし、そのままマスターピースが生まれれば、“誰かよからぬ者”の手に渡ってしまう可能性もあり――それはとても危険じゃ』

「じゃ、じゃあ私達はどうすればいいの……!?」
今までしていたことが裏目に出るかもしれないという現実に、アキノはショックを隠せない。

『正しい”扉(アト)”を形成するのじゃ。それは“正しい願い”が反映されたマスターピースを得た時に姿を現す、“正しい扉”。それを求めるのじゃ――!』

「そんな回りくどいことをしなくても、今の扉を壊してしまえばいいじゃない」
別に私は帰りたいわけじゃないけど、とウリスが肩をすくめた。

『それはだめなの!』
『もしこの扉を壊したら、WIXOSS LANDだけではなく、おぬしら全員の存在を崩壊させることになるぞ? そうすれば――お前達はもうどこにも存在しなくなる』

「……!」
いくら相手の絶望する顔を見て楽しみたいとは言え、それでは元も子もない。それがどういうことなのか、身をもって知っているのだから――ウリスは黙り込んだ。

『つまり、正しい選択肢は――【マスターピースを出現させずに、扉も開けない】じゃ!』


ウムルとタウィルの話を聞いた一同。ショックを受ける者、思考停止する者、この先のことを考える者――今まで不確定の情報しかなかった中に、“世界を俯瞰して見ることができる”という存在からの言葉が重くのしかかった。

しかし、内容としては悪いものではない。今出現している扉については関与しなければいいのである。そして、正しいマスターピースによって正しい“扉(アト)”を開ける。そうすることでWIXOSS LANDとDIVAの存在を壊さずに、ルリグ達は元の世界に帰ることが可能になる――。

ただひとつ、やはり気にかかることがある。“誰かよからぬ者”という黒幕の存在だ。目的は分からないと言っていたが、ウムル達とはどういう関係なのか。その者に直接働きかけて、解決してもらうことはできないのか。

『“誰かよからぬ者”について――ワシらも全く関係がないとは言い切れぬ。実際に今も行動を制限されているし……こちらで解決できるような状況でもないのじゃ』

『みんなが ばとるをしていたから ねがいのちからで かたりかけることができたの』

『今のWIXOSS LANDは、“願い”が大きな力を持っている。だからこそ扉が出現したし、こうして声を届けることができたのじゃ』

『たうぃるたちも みんなをうしなうのはいや……。うぃくろすのものがたりのためにも さけなくてはならないって おもったの』

「……みんなはどう思う? ふたりの言葉に証拠はないけれど……嘘は言っていない気がするわ」
ウムルとタウィルが誠実に話してくれていると感じたピルルク。
信じてもいいのではないかと、リルとメル――そしてヒラナ達の顔を見回した。

「そうだね。信じた上で……どうするかは、改めてみんなで話し合おう」
リルが頷き、それに続いてメルも頷く。

「またみんなで力を合わせられたら……嬉しいよね!」
そう言うヒラナの笑顔に、少し安堵するピルルク達だった。

『信じてくれてありがとうなのじゃ』
『たうぃるもうれしいの!』
『ただ、もう通信の力が消えそうじゃ……!』

ふたりの声が、だんだんと途切れ始める。

『なんとか、伝え……て、良かっ……』

「待って、“誰かよからぬ者”の正体を――!」
ピルルクが叫ぶも、もうこちらの声は届かない。

『あと……んなに、まかせるの!』
『また、会え……を願って……じゃ』
『…………』

ウムルとタウィルの声が聞こえなくなり、辺りのノイズも消えた。
一瞬の静寂のあと、ヒラナが大きな深呼吸をした。

「はぁ~~~! 何か緊張したぁ!」

「確かに、謎の声が世界の真実みたいなことを話し始めるなんて、なかなか起こることじゃないものね」

「まさか……これ、現実、いやVRか……だろしたら彼女達はNPC的な……?」
レイの言葉を聞き、もしかしたら夢なのではないかと、ヒラナはアキノの頬をつねった。

「きゃっ! 何するのヒラナちゃんっ……い、いた……くはないか、WIXOSS LANDだもんね」

「あははは! アキノちゃん、ノリツッコミうまいっ!」

「もう~やめてよ~!」

「ふふ」
ヒラナ達のやりとりを見て、思わず笑いがこぼれるピルルク。

「ほら、笑われてるわよヒラナ」

「え~! 笑われてるのはアキノちゃんでしょー!?」

「いえ、ごめんなさい。何だか少し……ほっとしてしまって」

「やっぱりピルルクも緊張してたんだね!」

「ええ、そうかも」

一同が和やかな雰囲気に包まれた時、ユヅキや緑子達他のルリグやDIVAもやってきた。ピルルクが今あった出来事を話すと、別の場所ではウムルとタウィルの声は聞こえなかったとのことだった。やはりバトルをしていたあの時、あの場所だからこそふたりも干渉できたのだろう。

「ウムルとタウィル――ふたりもルリグなのかな。DIVAではなさそうだし」
「分からない……けど私達以外にもWIXOSSに関わる者達がいる――」

ユヅキの疑問に、ピルルクも答えは持ち合わせていない。ただ、ふたりが言っていた“WIXOSSという、ひと繋ぎの物語”という言葉――それが、WIXOSSがただひとつの世界にあるカードゲームという枠には収まらない、幾重にも折り重なり、絡み合う存在なのだろうと感じさせた。

こうして目に見えているところ以外にも、別の世界が広がっている――あるいは意識の届かないところにも。

「いつか会うことができるのか、それとももう一生交わることがないのか……そして味方なのか敵なのか。また謎が増えたわね」

「さて――」
ピルルクは脳内での思考を止め、周りにいる“仲間達”に声を掛ける。

「ウムル達から聞いた情報を元に、今このWIXOSS LANDに現れている“扉”についての扱いを、改めてみんなで考えましょう」

心が足踏みをしていた状態から、今度はしっかりと歩み出せそうだ。

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