【第3話】

THE JUDGEMENT 前編

仮想空間WIXOSS LAND某所――。
NO LIMITをはじめとするDIVA達は、集まって現状についての話し合いをしていた。

「――『あの伝説のDIVAが活動再開!?』か……。そんな手放しに喜べる状況ではないと言うのに……運営はこの事態を把握していないのかしら」
レイがWIXOSS LANDから送られてきたニュースに目を通しながら、ため息をついた。

「それか……分かってはいるけど、あえて触れないようにしているとか……?」
アキノは不安そうな表情をしている。

「WIXOSS LANDがなくなっちゃうかもしれないなんて、信じたくないもんね……」
ヒラナは大きく肩を落として、レイとアキノの顔を見返した。

本来、夢限少女が復活ともなれば、お祭り騒ぎにもなるレベルの出来事である。全DIVAの憧れと言っても過言ではない存在だ。現役ではないのにも関わらず、今もなお彼女達のファンだと言うセレクターも大勢いる。

しかし、今回夢限少女が動くことになった理由を知るヒラナ達は、素直に喜べるはずがない。

『願いを叶える扉』の扱いについて、完全に3つの派閥に分かれることになったDIVAと異世界のルリグ達。さらには、扉の影響で姿に変化が現れるという事態まで発生している。

表向きにはDIVAバトルが活発になり盛り上がっているように見えるが、裏――本質は、WIXOSS LANDの存亡を賭けた重要な分岐に関わる決戦が繰り広げられているということなのである。

ただ、その決戦の中でもまだ、扉を開けるためのマスターピースは出現していない。WIXOSS LANDを存続させるためには、“防衛”の立場であるDIVA達がマスターピースを得る必要がある。

「……そもそも、こんなモヤモヤした気持ちで戦っていて、本当にマスターピースは現れるのでしょうか………」
ムジカは腕を組み、自分達の現状を憂いて首を振った。

「そうだにゃ。本来のDIVAバトルはこんなんじゃないはずにゃ……! もっと、こう、楽しくて、心から燃え上がるような……!」
そう訴えるLIONの肩に、LOVITが手を置いてなだめる。

「――でも、ボク達しかWIXOSS LANDを守ることができない。そうだろう?」
一同を包む重たい空気の中、タマゴ博士がいつもの調子で話し始めた。

「実は、調査の中でとある古の力の抽出に成功したんだ。WIXOSS LANDを守るために、みんなにもこの力を共有したいと思っている」

「古の、力……?」
全員の視線が集まったことを確認すると、タマゴ博士は言葉を続ける。

「そう――その名も、“ゲート”」


一方、現在扉が出現しているWIXOSS LANDの別の場所。

リルとメルは、ピルルクと共に扉を見つめていた。扉とマスターピースをめぐるバトルは、今までしてきたバトルとは違い、相手と正面からぶつかり合えるものではなかった。特にヒラナ達DIVAとは、内心目をまっすぐ見るのもつらい。一度戦うと決めたものの、やはり友人の世界を壊すことに何のためらいもないとは言えないのだ……。

「他の方法がある、ってことはないのかな。ねぇ、リル?」

「うーん……確かに、結局やってみないとどうなるかは分からないっていう部分があるとは思う。例えば、扉を壊したからって、私達が元の世界に戻れなくなるって確定しているわけじゃないし」

「そうね。だけど、壊したせいで本当に帰れなくなる可能性もあるでしょう」

「うっ……」

「私達が最優先するべきなのは、この世界から解放されて、元の場所に戻ること。確定の情報がほとんどないからこそ、わずかな線も逃すわけにはいかないわ。今の状態がイレギュラーなのだから……」

ずっとこの状況でいることが、安全ではないこともあり得る。そもそも元の世界での自分達の状況は、今どうなっているのかも分からない。
それに、タマの想いだけが目立ってはいるが、リルとメルだって会いたい人がいるはずだ。

「あっ、そうだ! 扉を開いたあとで、またWIXOSS LANDを作ってもらったらいいんじゃない? ここは創られた仮想の世界なんでしょ? なら、もう一度作り直すことが……!」
メルが解決方法を思い付いた、とばかりに声を弾ませたが、ピルルクは表情を変えずに首を振る。

「それが可能なのか、私もタマゴ博士に聞いてみたのだけれど。ただの不具合などとは違って、いくら対策をしてあってもそれらは全て無駄……復元も難しいだろうということだったわ。下手したら現実への干渉がある可能性さえ考えられるのだとか……」

やはりWIXOSS LANDを維持するためには“扉を開けない”という選択肢しかないらしい。

詰まるところ、WIXOSS LANDとDIVA、さらには観衆のセレクターというこの世界の全てにとって、自分達は“敵”ということになる。実際には事情を知らない人の方が多いだろうに、そう認識した途端、とても居心地が悪く感じる。空気が冷たくなったような気まずさ。異世界から来たという謎の存在である自分達を、あたたかく迎えてくれたこの世界を裏切ることになる後ろめたさ。

リルもメルも、ピルルクも――思索はしたもののやはり選択肢は一つしかない。できるだけ悲しむ人が少ない方がいいには決まっているが、そんなに上手くはできていないようだ。


「そんなに憂いた顔をして――どうしたのかしら?」
後ろから聞き覚えのある声がし、ピルルク達はとっさに振り向く。

案の定、そこには心配するような言葉とは裏腹に、愉悦の表情を浮かべているウリスの姿があった。

「……分かりきっている理由をあえて聞くなんて、いじわるだよ」
あとからゆっくりと現れたハナレがそう注意をするが、ウリスは気に留めていない。そしてさらにもうひとり、「待ってくださいよ~ぅ」と走って来るルリグがいる。

「あっ、みなさんお久しぶりです……!」
ハナレの後ろに身を半分隠しながら、ぺこぺことお辞儀をするグズ子。メルとリルもWIXOSS LANDに来てから彼女に会ってはいなかったが、ウリスと共に現れたということがどういうことなのかは明白だった。

「ここに扉はないわよ」
ピルルクがウリスを睨みつけ、リルとメルも警戒態勢を取った。

「ふん。カーニバルは扉を壊すことにご執心のようだけど? 別に、私にとってそれは結果でしかないの。誰かをバトルでぐちゃぐちゃにできるのなら、何でもいいってわけ」
ウリスがそう言って目の前に立っている以上、バトルは不可避だ。しかし、DIVA達とは違い、どちらの道も塞ごうとするこの一派とは、リルもメルも遠慮がなくバトルができる。

「望み通りには、ならないけどね」

「根拠のない自信を振りかざすのは、みっともないわよ。だってほら――」
受けて立とうとするリルを鼻で笑ったウリスが、ハナレに目をやった。

「ああァ――力が溢れて……抑えきれない……!」
ハナレは己の身を両手で抱きしめ、目を見開いている。その体から、激しいオーラのようなものが放出されているように見える。

「な、何あれ……」
メルはその様子を受けて、思わず一歩後ずさる。

「あははは。――ね? これを見てもその自信を保てるかしら」

「何なの? あの姿……まさか……新しい力? こんなタイミングで……?」
明らかに今までの力よりも強大になっていることが伝わって来る。これでは本当に太刀打ちできないかもしれないと感じたピルルクは、どうやって戦うべきかと考えを巡らせ――そして、あることに気が付いた。

「待って、リル、メル。私達にも――感じるわ。今までよりも強い、絆の力……!」
3人は目を閉じて胸に手を当てる。そこには確かに、自分達のものだけではない、複数の力を感じる。

「温かい……ね」
メルは嬉しそうに微笑む。

「うん……! 一緒なら戦えるよ!」
2人の様子を見て、リルは再び態勢を整えた。

「みんなで力を合わせて、元の世界に帰りましょう!」
ピルルクの言葉を合図に、攻撃を仕掛ける。

しかしウリス達も、退くはずがない。
「簡単に調子に乗るの――やめた方がいいんじゃないっ!?」


一進一退の攻防が続き、お互いの消耗も激しくなった頃――辺り一帯に大きなノイズが走った。小さなノイズはここ最近日常的に発生していたが、それとは比べ物にならない、明らかに異常事態だと感じる程度のノイズ。

「な、何!?」
ピルルクが仕掛けようとしていた攻撃の手を止めると同時に、その場にいた全員が辺りを見回した。

『――こ……る? おーい、聞こ……すかー?』

気のせいでなければ……途切れ途切れではあるが、確かにどこからか声が聞こえる。

「誰の声?」
聞いたことのない、この場にいる6人の誰でもない声。リルはノイズの走る空間を見つめた。

『これ……成功……聞こえてるようなのじゃー!』
『やったなの!』
だんだんとはっきり聞き取れるようになったその声――主は2人いるようだ。

『ワシはウムル』
『たうぃるなのー!』

「ウムルとタウィル? 知らない名だけど――バトルの邪魔をするなんていい度胸ね」
ウリスは心当たりがないという顔でハナレとグズ子の方を見るが、2人も同じ反応をしている。元の世界でも、WIXOSS LANDに来てからもそのような名前の知り合いはいないはずだ。――加えて、そのような話し方をする知り合いも。

『そ、それは申し訳ない……。ワシらは、えーと……この世界でははじめましてなのじゃ』

「この世界では? どういうこと――?」
ピルルクが訝しげにウムルと名乗る者に聞き返す。

『ワシらはどの世界の住人でもあるのじゃが……と、とにかく今は詳しく説明している時間がない! 一旦話を聞いて欲しいのじゃ!』

「……」

何者かは分からないが、攻撃される様子もなく、危ない感じもしない。話を聞くだけでいいのなら、害はなさそうだ。

「分かっ――」

「まっ、待ってまってぇー!」
ピルルクが答えようとした時、ヒラナとレイとアキノが走ってやって来た。

「扉を探して歩いてたら、突然声が聞こえて――これ、どうなってるの!?」
「私達にもよく分からないわ。ただ、一旦話を聞くだけなら、と思って」
ヒラナに説明をして、ピルルクが顔を上げる。

「どうぞ、話してちょうだい」

『うむ。では――』

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