【第2話】

THE BATTLE 後編

カーニバルとLION達のバトルの少しあと――扉はまた別の所に出現していた。ヒラナ達No Limitの3人は、扉を守るためにその場所を陣取っている。

まだマスターピースは出現していないが、話に聞くところでは、扉を破壊しようとするルリグ達もいるらしい。扉を野ざらしに放置しておいたら、何をされるか分からない。

「ヒラナ……そんなピクニックじゃないんだから……」
ビニールシートを敷き、おやつを広げているヒラナに、レイが呆れて溜め息をつく。

「でも地面に座るよりいいでしょ? それにもしかしたら長い時間ここにいなくちゃならないかもだし」

「それはそう、だけど……」

しかしその時、アキノが人の気配に気が付いた。

「ヒラナちゃん、レイちゃん……そんな時間はない、かも」
ビニールシートから立ち上がったヒラナが振り向くと、3人の人物の姿があった。

「ピルルク……リル、メル……」
少し前であれば、一緒にピクニックでもどうかと誘いたいところであったが、今は難しい。ピルルク達も、そんなつもりはないことが表情から分かる。

「そこを……どいてくれないかしら」
ピルルクがこちらに少しずつ近づいて来る。

「ま、まだマスターピースがないでしょ? どうせ開けられない!」
ヒラナはレイとアキノと共に、扉を隠すようにして立った。

「だけど、いつ突然手に入るかも分からない……。その時に君達のそばに扉があったら、開けることができないでしょ?」
「お願い、扉を私達に開けさせて……!」
リルは真っ直ぐこちらを見て、真摯な態度で話をしてくれている。しかしだからと言って、譲ることはできない。必死に願うメルの言葉にも、うなずくことなどできやしないのだ。

「ごめん……」
ヒラナのその言葉を合図に、ピルルクがバトルの姿勢を取った。

「なら、力づくでどいてもらうしかない……私達の世界に帰るために」
そして目を伏せると、突然波のようなものに包まれ――今まで見たことのない力強い姿に変化をする。

「そんな……何あれ? あんなのに対抗できる力なんて……」
「今からデッキを見直す時間も……!」
焦る3人の後ろで、大きな光が弾けた。驚いて振り向こうとすると、そこに現れた人物が、優しい声を発した。

「大丈夫。あなた達には、私がついています」

夢限少女のアザエラ――ピンク色の衣装に、背中には羽をたずさえた姿は、まさに伝説のDIVAだ。

「アザエラ!?」
ヒラナ、レイ、アキノの声が重なる。

「WIXOSS LANDが大変なことになっているって聞いたの。……私達が力を貸すわ」

「私達ってことは……?」
ヒラナがもしかして、声を上げると、アザエラからは予想通りの返事が返って来た。

「ええ、ミカエラとガブリエラもいるわ。きっと彼女達もWIXOSS LANDを守りたいと思っている。あなた達と同じ気持ちよ」
そう言うと、アザエラはバトルの態勢に入る。

「さぁ、一緒に戦いましょう。この世界のために――」

そうだ――自分達はここを守ると決めた。戦う相手がピルルク達だとしても、これは譲れない想いだ。 ヒラナはまっすぐとピルルクを見つめ、手を掲げた。


タマゴ博士の元には、ここ数日間だけでもDIVAとルリグのバトルが確認された情報が集まっていた。
しかも、これはWIXOSSを楽しむためのものや、己を高めランキング上位を目指すためのものではない。お互いの生きる場所を賭けた、真剣でつらいバトルだ。それも、少し前には共に笑っていた相手との――。

モニターに映るバトルの様子を見ながら、首を振る。

「3つの派閥 に分かれてしまったこの状況――扉を開けてこの世界の束縛から逃れることを望む異世界のルリグ達は『解放』、扉を守りWIXOSS LANDを維持したいボク達DIVAは『防衛』、争いを好み欲望のために扉を破壊しようとするカーニバルやウリス達一部のルリグの『闘争』――。それぞれの立場を言葉にするのなら、さながらそんな感じかな」

「不本意だけどね」と言いたそうなタマゴ博士にノヴァもため息をついて同意する。

「はぁ……本当に。完全に対立状態――です」

「もしこれが誰かの求めた“願い”ならば……何と趣味の悪いことだろうね」

「DIVAとルリグが戦うように、誰かが仕向けた――ということですか?」
タマゴ博士の言葉に、ノヴァが確認するように聞く。

「……偶然にこんな流れになるとは思えない、と考えている程度だけれど」

「この世には、私達が考えつかないような思想を持つ人間がたくさんいますから」
バンも何かを検索しながら、『ありえなくもない』という態度だ。

「AIにも考えつかないものがあるのかい?」

「残念ながら……」
バンはため息をつき、肩を落とす。

「人間の思想というのは、最も解析が難しい事象のうちのひとつです」

「……」
タマゴ博士は画面越しにバンを見つめる。

「ただ――」
バンはその視線を受け止めるように、タマゴ博士を見据えて続けた。

「ただ、その『思想』によって、新たな可能性と未来が続いていく希望になることもまた事実です」

「……僕達の『願い』のように?」

「はい」

「なるほどな」
「人間は難しい」と肩をするくめるバンに、タマゴ博士はフッと微笑みかけた。

そして3人はバトルが続くモニターを再度見上げる。

「もしこれが何者かによって仕組まれたものだとしても、何か別の道や解決方法が見つけられるかもしれません。私達は、私達にできることをしましょう、博士」

「もちろん、そのつもりだ。一緒に頼むよ、ノヴァ、バン」

「当たり前です、ドクター」

強力なシグニと組んで臨むDIVAバトル――本来の世界に帰るために、WIXOSS LANDを守るために、ただ壊すために戦う。たとえ誰かの想いを犠牲にしたとしても――。

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