【第4話 前半】
WHY?:興味
みこみこはタマという強い味方を得てご満悦だった。
今回の『望むものをなんでも』叶えてくれるという報酬は、背景に運営のどんな意図があるのだとしても、魅力的なことに変わりはない。
何としてでも誰よりも先にアンノウンを見つけてその報酬を得る――みこみこはこのクエストに参加する際にそう決めた。
だからこそいち早くディソナに入ったし、自分のパートナーシグニを得てからはどんどんバトルをしてきた。
実際、自分だけでも戦い抜くつもりではあったが、タマの強さを目の当たりにしてしまったら、仲間にする以外考えられなかった。
たくさんのディソナシグニを集めるためには、その力があったほうが確実に有利である。
『アンノウンの居場所に心当たりがある』というのは確かにタマを釣るための嘘ではあったが、自分が最初にアンノウンを捕まえてやるという気合いがあるのは本当だ。
実際にそうなれば、結果的に全てが嘘だとはならないのだから問題ない。
「さぁ、まずは手始めにここにいるDIVAを倒しちゃいましょ♪」
みこみこはヒラナ、花代、緑子に目をやる。
「……みんなを?」
「そうよ。アンノウンを見つけて捕まえるには、全てのDIVAを倒すぐらいの気持ちでいかなくちゃ。仲良しだからって、甘いこと言っていられないの」
ついていくと決めたということは、タマもみこみこと同じ行動理念で動くということだ。アンノウンを最初に見つけるためにそれが必要だというのなら、やるしかない……。
それに何故だか、倒せと言われると心の奥がうずくような感覚がある。
まるで戦って全てをめちゃくちゃにしてしまいたいと望んでいるような……そんな気持ちをかすかに自分の中に感じるタマ――。
「すべて……たおす……」
一瞬ためらいを見せたが、自分に言い聞かせるようにして言葉を繰り返し、ゆっくりと手を上げながら一歩前へと踏み出した。
「ふふん」
戦闘態勢に入ったタマを見て、みこみこは満足そうに笑う。
「タマちゃん……!!」
視線を向けられたヒラナは先ほど実際に見たタマの強さを思い出す。かなりの強敵であることは間違いない。
自分もパートナーシグニを持ってはいるが、バトルとなればその特性や相性だって関係がある。
どう戦えばいいか……ヒラナは焦りながらも、冷静に展開を想定し始めていた。
「タマと戦うしか……ないのか」
「うん……むしろここで止めなきゃいけないかもしれないね」
花代と緑子もまた、こうなったら仕方ないと腹を決めつつあった。
そもそもこのクエストの最終目標は自分達が最初にアンノウンを見つけ、ひどい扱いをさせないようにするというものだ。
それが叶えられるのならば、仲間の誰がそれを達成しても問題はない。ただヒラナによれば、このみこみこというDIVAは自分の目的に真っ直ぐなタイプらしく、タマの願いを聞いてくれるかどうか定かではない。ここで止めておかなくては、タマが傷つく可能性があるのだ。
「ここは私達からいくよ」
花代はヒラナにそう言い、バトルの態勢に入る。
「タマの戦い方なら、今までたくさん見て来たしね」
なんとか対応してみせると、緑子も覚悟を決めた。
――その時、ふたりは一瞬柔らかいものにふわっと包み込まれたような不思議な感覚を覚え……戸惑いのあと、気付くと目の前に何かが浮かんでいた。
「これって……?」
花代が手を伸ばすと、それは宝石だった。
色とりどりで美しく、愛に満ちたように輝いている。触れるだけで心が穏やかに、優しくなれるようなあたたかさがある。
「それ、パートナーシグニじゃない!?」
ヒラナが覗き込む。
「え……?」
緑子の手元にはオオカミのツメ。誰かを助けるための力になるだろう。
「これがボク達の……」
「突然で驚いたけど、これでタマとも対等に戦えるね」
「……うん」
花代と緑子は改めてタマと対峙し、パートナーシグニを展開。自分達に向けて放たれた攻撃を受ける――。
「花代、緑子!ヒラナ……!」
駆け寄って来たピルルクが、3人を心配して立膝をついた。
「大丈夫?」
メルがヒラナに手を貸し、立ち上がるのを手伝う。
「うん、ありがとう……。てか、タマちゃん強すぎっ」
「私達じゃ止められなくて……ごめん」
パートナーシグニを得て戦った花代と緑子だったが力及ばず……続いてバトルしたヒラナも、アンノウンのために無我夢中で戦うタマには敵わなかった。
「……既に花代達3人以外にも、周りにいたDIVAのほどんどを倒したのか」
辺りを見回したリルの目には、タマに敗北して肩を落とす大勢のDIVAの姿が確認できた。
実際にバトルの様子を見ていないとはいえ、その強さを証明する光景に圧倒されてしまう。
息ひとつ切らさず、威嚇とも憐みとも見て取れる瞳を静かにこちらに向けているタマ。
周りに渦巻く黒いオーラと、負けたDIVAのタマに対する畏怖の念がその場に渦巻き、異様な雰囲気が漂っていた。
その中でひとり陽気なのがみこみこだ。
「想像以上にすごいじゃない……!」
このままいけば間違いなく報酬を得られるだろうと、ご機嫌である。
「その勢いで残りのDIVAも全部やっちゃえ~!」
「タマ、聞いて……!!」
ピルルクが叫ぶが、すぐさまタマのパートナーシグニが攻撃を仕掛けてくる。
タマに声が届く間もなく、足止めされてしまう。
「んああああああーーーーーっ!!」
ドカッ、ドカッ――!
バトルを重ねていくことで、破壊衝動を具現化したようなパートナーシグニの特性と、心の不安定さが相乗効果を生み出し、さらにタマを狂暴化させてしまっている。
花代も緑子も、強い願いを持ちながらも破壊的に戦い続けているタマを見ているのは、どんどん黒く染まっていく姿を見るのは……つらい
「やるしかないようね……」
今はもう自分達の声は届かないと思ったピルルクは、直接止めるしかないとタマに向かっていくも――やはりタマの勢いは簡単には抑えることはできなかった。
「ごめんね、みんな……。タマ、るうを……アンノウンを見つけなきゃ……」
そう言ってみこみこに連れられていくタマ。本当に全てのDIVAを倒してしまいそうな強さを持ちながら、その表情はどこか泣き出しそうでもあった。