夢限少女杯 準決勝
ゆきちゃん選手 vs シロネコ選手(ライター:てらたか)
全国ナンバーワンを決める大会ともなれば、当然、気合の入れ方は人それぞれ違ってくる。
この大会が始まる前の週、毎日神社参りをする選手がいた。「人事を尽くして天命を待つ」の天命すら、待てずに自分で呼びつけに行っていたのだ。
本番の前日に、自身のブログで大会への決意表明をする選手がいた。”対戦、よろしくお願いします”と締めくくられたその文章の中には、隠しきれない闘志が顔を見せていた。
本気で大会に臨むという共通項の中にも、人それぞれの気合の入れ方と決意がある。選手たちは、デッキと共にそれぞれの気持ちをぶつけ合いながら、片方が敗退し、そしてもう片方が駒を進めてゆく。
そうして準決勝まで残った、4人の選手。そのうち、動画配信卓ではなかったほうの2人の『気合』は……、変な形をしていた。
「夢限少女になるためにはまず形から少女にならないと」
わけのわからない理由付けをしながら女装姿で会場に乗り込んできたゆきちゃん選手は、ひときわ奇妙な気合の入れ方だったと言えるだろう。
服もバッチリ、爪もバッチリ、顔はなんだか化粧できらきら。カードゲームの語彙に比べファッションの語彙に乏しい人間からすると、うまく姿を形容できそうにない。
本当にカードゲームをしに来たのかも怪しい気合の入れ方だったが、よくよく考えてみればウィクロスは公式がプレイヤーにコスプレを強要してくるゲーム。
ある意味とてもウィクロスらしい、のかもしれない。
そんな彼、あるいは彼女と相対するのは、「本日の主役」とでかでか書いてあるタスキをかけたシロネコ選手だ。
その意気込みこそ「本日の主役を狙う」で違いないのだろうが、傍から見れば誕生日パーティーかなにかで張り切っちゃった男にしか見えない。
「勝ったらタスキ奪い取る」
試合開始前から、そんな宣言をするゆきちゃん選手。ただでさえ女装で『本日の主役』がかすむぐらい目立ってるのに、まだ貪欲に装飾品奪取を目論んでいるらしい。
女装姿のゆきちゃん選手に、パーティーボーイ・シロネコ選手。
おい、会場は張り詰めた空気が満ちた緊張感溢れる空間だったんじゃないのか。一体どうなってるんだ。
ひとしきり会場が変な雰囲気に流されたのち、2人はようやく試合準備にかかる。
おもしろおかしく着飾っているとはいえ、ここまで勝ち上がってきた実力は疑う余地もない。
“原子デウスを作り上げたプレイヤー”として有名なプレイヤーといえばこの大会にも参加しているわっく選手だが、”原子デウスのプレイを洗練を極めた形まで仕上げたプレイヤー”としてはゆきちゃん選手が挙げられるだろう。
原子デウスでの各環境デッキに対するノウハウをまとめた記事は、同じく夢限少女杯を突破したイシイ選手が「おおむね守ってたらディーヴァグランプリ予選を全勝した」と絶賛するほど。
今回の夢限少女杯でも、まさに”原子デウスの祖”であるわっく選手を相手に勝ち星を挙げて、ここまでやって来た。風貌は奇抜でも、プレイの腕前は折り紙付きだ。
対するシロネコ選手の功績としては、確かなデッキビルディング能力による環境への影響力が挙げられるだろう。
キーセレクション時代からさまざまなアーキタイプを環境入りさせ、ディーヴァセレクションでも白単《宇宙級母性》型のリメンバや手札全破壊型のダッシュヒラナなど、環境で活躍するいくつものデッキを手掛けている。
関東をやすやすと飛び越え、さまざまな地域でシロネコ印のデッキが見つけられる。
そんな彼は、今回の夢限少女杯でも、基盤すべてを自分で考えた唯一無二のシロネコ印で優勝を狙いに来た。
「環境の解答だから! 任せてほしい」
声高に語るシロネコ選手は、パーティーボーイらしい陽気さと、デッキビルダーらしい自信を両方とも兼ね備えている。
どちらも、関東を代表するプレイヤー同士。面識もある。互いが互いの実力も知っている。
朗らかに会話しつつも、ゆっくりと交わす口数を少なくしながら。
試合が始まりを告げる頃には、もう服装以外、ふざけた空気なんてものは完全に消失していた。
ゆきちゃん選手(デウス-アンジュ/マドカ) vs シロネコ選手(ノヴァ-マドカ/マキナ)
一口にデウスと言っても、その種類は多種多様だ。
ディーヴァグランプリ3rdを準優勝まで勝ち抜いた、《コード2434 シスター・クレア》による連続アタックギミック搭載型のデウス。
ディーヴァグランプリ4thで唯一予選を抜けたデウスである、《聖天姫 エクシア》《聖天姫 アークゲイン》大量投入型の耐久寄せのデウス。
アンジュ/マドカというアシストルリグ編成を見ただけでは、そのデウスがどんなデウスかは判断できない。場に出てくる公開情報から推理していくしかない。
されど、1ターン目。答えは意外と早く判明する。
《マドカ//フロート》へのグロウで捨てられた手札コストが《羅原 H2》であり、またゆきちゃん選手の場に並んだのが《羅原 Se》と《羅原 Pa》であったためだ。
グランプリで勝ち残ったどのアーキタイプとも違う、《ゆかゆか☆ぴーひゃら》を採用しない白入りの原子デウス。彼は、自分が最も長い期間使ってきた相棒を、新たな形にして持ち込んでいた。
「なるほど」
出てきたシグニと自分の手札を見比べてひとつ頷くと、シロネコ選手は、マリガンせずすべてをキープした万全な手札で、さっそく攻撃を仕掛けにいく。
エナチャージからのグロウ後、すぐに《羅菌 オイゴナ》を場に送り込み、《幻光蟲 ヘイケ》をコストに《羅原 Pa》を除去。残る1面に《聖将 トキユキ》を立て、3枚の手札を残しながら、さっそく2点要求だ。
同時に、彼のデッキが《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》を主力にしたデッキであることも判明する。
《羅原姫 H2O》軸vs《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》軸。大型シグニ軸のデッキによる対戦は、ひとまずこの2点がバーストに阻まれずに通ったことで、少しだけシロネコ選手優位な形でのスタートとなった。
ただ、ゆきちゃん選手も黙ってはいない。
レベル2へとゲームを進めた彼は、手札から《中装 デウス//メモリア》を場に送り込み、《【アシスト】アンジュ レベル1》で《聖将 トキユキ》を手札に戻す。シグニを3体並べて、すぐさま3点を取り返す姿勢だ。
この3点要求が通り抜ければ優位はすぐゆきちゃん選手へひっくり返る……というところで、シロネコ選手のライフからはバーストの《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》が登場。
前のターン、しっかりとレベル1の《幻光蟲 ヘイケ》をトラッシュに送っていたシロネコ選手は、それを場に出すことでこのターンのダメージを2点に抑え込むことに成功した。
続くターン。シロネコ選手はまたしても《マドカ//フロート》を使用しない。
エナチャージをスキップしてセンターをグロウさせた彼は、《融合の儀 ウムル//メモリア》でまずはデッキを1枚トラッシュに落としたのち、マキナを《マキナウィングスラッシュ》にグロウ。
《融合の儀 タウィル//メモリア》を回収すると場にいる相棒の隣に置き、最後に《マキナウィングスラッシュ》で除去した面に《聖将 トキユキ》を置いてアタックへと入った。
残した手札の枚数は、このターンも3枚。
ゆきちゃん選手は、アシストの使用を少し考える。
オーソドックスな原子デウスであるならば、3ターン目以降《羅原姫 H2O》を多面展開するため、アシストを片方グロウさせておくのがセオリーだ。
しかし、相手はこれまでのメタゲームで一度も流行を見せなかった、シロネコ印のシークレットデッキ。対面から何が飛んでくるかなぞ分かったものじゃない。
悩んだ結果、彼はこのターンのアタックを素通しすることにした。
ライフは5対4。原子デウスのセオリーからは外れたリミット6の展開で、ゆきちゃん選手の3ターン目が始まる。
シロネコ選手の3枚の手札が、不気味に存在感を主張していた。
手札破壊系のデッキにとって、最も警戒しなければならない3枚という枚数の手札が。
ゆきちゃん選手はチャージをスキップし、まずはセンタールリグを、長きにわたっての相棒たる《デウス・スリー》まで成長させる。
その後に出てくるのはもちろん《羅原姫 H2O》だ。ライズ元には1ターン前にライフバーストで回収されていた《羅原 H2》が使用され、ランダム選択の手札破壊が入る。
そして裏向きのまま選ばれたシロネコ選手の手札から。
《羅菌 アメーバ》が姿を表す。
《羅菌 アメーバ》の登場から、手札破壊関連の事情は大きく変化した。
手札が3枚の状況で《RANDOM BAD》をうかうか撃っていようものなら、《羅菌 アメーバ》であっさりリソース損失をなかったことにされかねない。しかし手札破壊を3枚で諦めてしまっては、もう手札破壊の強みなんてものは存在しない。
そのことを理解しているからこそ、ゆきちゃん選手は他のどの手札破壊より《羅原 H2》の効果に信頼を置いたのだ。《羅菌 アメーバ》に重要な手札を守られる確率が、最も低くなるように。
けれど、めくれた《羅菌 アメーバ》のせいで、シロネコ選手の手札は3枚のまま。リミットが6なせいで追加の《羅原姫 H2O》を出すこともできず、ゆきちゃん選手に大きく動くだけの余力は残っていない。
仕方なく彼は《聖将 トキユキ》の前に《羅原 Ga》を出して《デウス・ワン》のソウルを付与し、《コードメイズ ユキ//メモリア》で《融合の儀 タウィル//メモリア》のパワー+4000効果を消し去って、1面の要求のみでアタックに入った。
当然、このオイシイ状況をシロネコ選手は逃さない。
《羅原姫 H2O》による点数要求ならば使えなかった《マキナスマッシュ》が、このタイミングならば防御として通る。《デウス・ワン》のソウルが付いた《羅原 Ga》がバニッシュされ、トラッシュ回収は使用されず、これでディフェンスステップが終了する。
トラッシュ回収効果が使用されない。
その宣言に、ゆきちゃん選手の微かな動揺が見て取れた。とはいえ、無条件で1枚分のアドバンテージ差が生まれるアタックを、しないわけもいかない。
ゆきちゃん選手が《羅原姫 H2O》の効果で手札破壊を宣言すると、予定調和のように、シロネコ選手の手札から《羅菌 アメーバ》が絡みついた。
シロネコ選手の手札は、3枚の状態から2枚破壊されて、いまだ3枚。
その後のルリグアタックこそ通ったものの、ライフバーストからまたしても《融合せし極門 ウトゥルス》。シロネコ選手のトラッシュから《幻光蟲 ヘイケ》が手札へと舞い戻り、これで次ターンに《羅原姫 H2O》が処理されることまで確定してしまった。
センタールリグを《運鳴 ノヴァ》へグロウさせたシロネコ選手は、《羅菌 アメーバ》に手札保持を任せることで温存を続けていた《マドカ//フロート》をとうとう使用して、さらに手札を増やしにかかる。
続けて先ほど回収した《幻光蟲 ヘイケ》で《羅原姫 H2O》をバニッシュしたのち、今度は《羅星姫 ミュウ//メモリア》で《融合の儀 ウムル//メモリア》を回収してから、《運鳴 ノヴァ》のゲーム1能力で《融合の儀 タウィル//メモリア》をデッキトップに。
当然、今しがた回収した《融合の儀 ウムル//メモリア》を場に出せば、出現時効果でこれまた今しがたデッキトップに置いた《融合の儀 タウィル//メモリア》がそのまま場に出てくる。
2枚をトラッシュに送れば、《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》はあまりにもあっさり場へ降臨する。
その出現時効果で《融合の儀 ウムル//メモリア》が下敷きになり、場にはパワーラインの補強となる《聖将 トキユキ》が蘇生される。
シロネコ選手の手札が、尽きない。
《羅星姫 ミュウ//メモリア》の下に1枚の下敷きが置かれて、なおシロネコ選手の手札は4枚である。それどころか、《運鳴 ノヴァ》の効果でターン終了時には6枚に増える。
手札を増やしながら3面がそろい、おまけに点数要求もばっちり3面分。
試合前にシロネコ選手が発した、「環境の解答」という言葉通りに。多少の手札破壊ではびくともしない手札供給力が、ゆきちゃん選手に襲い掛かる。
「ターン終了時に2枚引くんだよね?」
確認を取ると、ゆきちゃん選手はすぐさまアンジュを《【アシスト】アンジュ レベル2’’》へとグロウさせた。《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》がシロネコ選手の手札に戻り、これでターン終了時にシロネコ選手を手札超過に陥れる算段だ。
《聖将 トキユキ》のアタックで《中罠 あや//メモリア》がめくれ、《羅星姫 ミュウ//メモリア》が凍結される。ライフは4対3、《運鳴 ノヴァ》のアタック時の効果でデッキに盛られた《サーバント #》が最後にシロネコ選手の手札に戻り、とうとう、リミット7になったゆきちゃん選手へとターンが移動した。
しかし、ターンを得たゆきちゃん選手の動きは、芳しくない。
長考したのち《マイアズマ・ラビリンス》を撃ち《羅星姫 ミュウ//メモリア》をバニッシュ、続けて《羅原 H2》を蘇生し《サーバント #》を回収した彼だが、そこから場に出てきたのは《凶魔 アンナ・ミラージュ》。
6枚の手札を悠々と構えるシロネコ選手に対し、1枚だけの手札破壊では、あまりにも心もとない。
《聖将 トキユキ》こそバニッシュされるが、続けて投入されたシグニは《聖天姫 エクシア》。3面要求こそうまくできたとはいえど、デッキの代名詞的存在である《羅原姫 H2O》が、その姿を見せることはなかった。
流れは、シロネコ選手の側に向いていた。
この3面要求に対し《聖天姫 エクシア》のライフバーストが2枚目で発動すると、ゆきちゃん選手の《凶魔 アンナ・ミラージュ》が飛んでいく。
ライフは危険域と言えど、盤面を硬くできる《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》軸のデッキは、1枚と2枚で天と地ほどの差がある。
後攻4ターン目、シロネコ選手は、その優位性を最大限に活用し始めた。
彼はまず《ウルトラスーパーヒーローズ》を使用し、ゆきちゃん選手のデッキを3枚まで減らす。
同時に補充された手札から《羅星姫 ミュウ//メモリア》《羅星 アンチラ》の宇宙シグニ組が飛び出し、《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》用セットがすぐさま揃えられ、《融合の儀 タウィル//メモリア》を下敷きにしながら降臨する。
このたびのこのシグニがトラッシュから呼び出したのは、《幻竜姫 ドラゴンメイド》!
ライフが多く残るということは、それだけ作るべき盤面の強度に余裕ができるということでもある。
ライフが少なければ生存のために《聖天姫 エクシア》を出さなければいけないこともあるし、そのせいで点数要求に苦労することだって当然ある。
この場面における《幻竜姫 ドラゴンメイド》は最強の攻撃力を持った1枚だったが、同時に防御面では何の耐性もないただのパワー10000。シロネコ選手は、状況をしっかりと見極め、最善の1枚を場へと送り出したのだ。
すべてのチャンスを、逃さぬように。
エナ枚数が心もとないゆきちゃん選手は、このアタックを通すしかなかった。
《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》が《聖天姫 エクシア》をバニッシュしながら《サーバント #》を回収すると、続けて《幻竜姫 ドラゴンメイド》のアタックでゆきちゃん選手の残りデッキがすべてトラッシュに落ちる。
《デウス・スリー》の最強のゲーム1能力が使われる前に、何もかもリフレッシュされてデッキへ帰っていってしまう。
十全な動きなら回収できた、あるいは引くことができたはずの、すべての《羅原姫 H2O》と共に。
3枚あったゆきちゃん選手のライフは、《聖天姫 エクシア》さえも貫通し、一気に0枚まで落ち込んだ。
すっからかんのライフに、リフレッシュダメージでめくれたライフと《サーバント #》だけのトラッシュ。そして、手元に1枚もない《羅原姫 H2O》。
だけれども、そんな状況でも――それは、決して敗北とイコールではない。
彼は、原子デウスを知り尽くしている。《羅原姫 H2O》がいない状況下での戦い方も、不意のリフレッシュと対面した時のプレイングも。
その圧倒的な経験則と知識量があるゆえに、彼は今、このベスト4の席に座っている。
再度の長考をしたゆきちゃん選手は、エナチャージ後、《羅原 H2》に《凶魔 アンナ・ミラージュ》をライズ。
1回《幻竜姫 ドラゴンメイド》にマイナスをかけると、出したばかりの《凶魔 アンナ・ミラージュ》をすぐにリムーブしてしまう。
そして、《デウス・スリー》のゲーム1起動効果で、今トラッシュに置かれたばかりのシグニたちを一気に回収する。
回収されたシグニ達は、またしても場に出てくる。《凶魔 アンナ・ミラージュ》の2回目の出現時効果は、エナ枚数を5枚でキープしておくために、使われない。最終的には、デウスのソウルで点数要求が行われる。
その一連の動作で変わるものはといえば。
《羅原 H2》の自動効果によってランダムに減っていく、シロネコ選手の手札の枚数だ。
《凶魔 アンナ・ミラージュ》とデウスのソウル付与がシグニを。《羅原 H2》の自動効果が手札を。リソースを削り取りながらの点数要求が行われれば、シロネコ選手のライフもこれで0枚の丸裸。
マドカのレベル2アシストに、確実な《サーバント #》の供給手段はない。
《サーバント #》を手札破壊ですべて引っこ抜くことさえできれば、次のルリグアタックで勝つことができる。あまりにも少なくなった公開領域から、ゆきちゃん選手は正しく勝ち筋を残し切ってみせた。
シロネコ選手に、ターンが訪れる。
勝利も敗北も、目と鼻の先にある。寿命がわずかなのは、更地になったライフゾーンに視線をやれば、誰の目にも明らかだ。
《スーパー・ヘルエスタセイバー》で《サーバント #》《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》《幻光蟲 ヘイケ》を回収したシロネコ選手は、《羅星 アンチラ》でデッキトップを《融合の儀 タウィル//メモリア》に固定する。
《融合の儀 ウムル//メモリア》から三たび《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》が降臨すると、蘇生対象を《凶魔 テューポーン》とし、硬い盤面ながら《融合せし極門 ウトゥルス//メモリア》の1点要求のみという盤面でアタックフェイズに入った。
ゆきちゃん選手の表情が、わずかに緩む。
彼の最後のルリグデッキから出てきたのは、《マドカ//ダブ》。
それは、5エナを残したゆきちゃん選手の渾身のブラフだった。
「次のターンに《サーバント #》をすべて落とされたら負け」。「もしも残っているアシストが《マドカ//クラップ》だったら、ここで大きな点数要求をしても、確実に守られてしまう」。
攻撃の手を緩めてでもリソースを確保せねばならない。シロネコ選手にそう信じ込ませ、本来なら2点要求以上で負けの状況を耐えきったのである。
最小のカードでの点数要求、そしてブラフ。
持ちうる”手札”をすべて総動員して、ゆきちゃん選手は、勝利へトライする権利を手に入れた。
《羅原 H2》が、ゆきちゃん選手の場に出てきて、出現時効果の1ドローを使う。そして、勝負の締めくくりこそはエースとでも言わんばかりに、《羅原姫 H2O》がそこへライズする。
《羅原 H2》の自動効果。落ちたカードは、《サーバント #》ではない。
それでも、まだ続く。《羅原姫 H2O》をリムーブしたゆきちゃん選手は、再び《羅原 H2》を繰り出し、《羅原姫 H2O》をライズさせる。《羅原 H2》の自動効果。
落ちたカードは……《サーバント #》では、ない。
――そして、極限までラストターンの勝ち筋を追い切ったゆきちゃん選手の手札に、次のターンを耐える《サーバント #》は、存在していなかった。
勝者:シロネコ選手
シロネコ選手が、咆哮する。
2回戦、配信卓で《幻水神 ホタルイカ》の手札破壊をどうにかかわして叫んだのち、この試合でも《羅原 H2》の手札破壊をなんとか回避しきってみせた。
気合も、運も己の力にして。心臓が張り裂けそうな運命戦を立て続けに制した彼は、信ずるデッキが『環境の解答』であることを証明すべく、とうとう夢限少女杯の決勝へと駒を進めた。