夢限少女杯 1回戦

hyakko選手vsアカバ選手(ライター:てらたか)

プレイヤーたちは、4か月もの期間、走ってきた。
ランキングを走る。何枚ものデッキリストにペンを走らせ、盤面に目を走らせる。
きっと、大会に間に合うかどうかの瀬戸際で、文字通り駆け足で走ることになったプレイヤーもいたことだろう。
“本当に突破できるのか?”
そんな不安と隣り合わせになりながらも、走って走って突っ走って、ようやく16人が手に入れられたのが夢限少女杯への切符だ。

けれど、辿り着いたトップ16はゴールではない。むしろ、本当に残酷なスタート地点こそがそこにある。

そう、夢限少女杯は、どこまでも残酷なのだ。
ここに来た以上、稼いだポイントはもう何の意味も成さない。対戦相手は抽選で決まり、一度でも負けたらそこで大会は終了してしまう。
4か月も走り続けてきた16人には、1回の敗北も許されない。
負けた途端に、”夢限少女杯”に、見放されてしまう。

たとえそれが、ランキングのほぼトップを走り切った選手達であったとしても。

完全ランダムな抽選で決められた、第1試合の卓のひとつ。そこには、ランキングをトップで走り切ったhyakko選手と、3位の好成績で走り抜けたアカバ選手の姿があった。

白窓の部屋で圧倒的なまでな成績を残しつつ、ディーヴァグランプリ3rdにおいても準優勝。
オンライン・オフライン問わず数えきれないほどの勝ち星を重ねてこの場所までやって来たのが、hyakko選手だ。
現環境の大会で見ない日はない「白青黒カラーの構成+《ウルトラスーパーヒーローズ》」という構成を最初にブレイクさせたのも彼であり、現ディーヴァセレクション環境に最も影響を与えている人物の1人と言って差し支えない。

他方、関西のドンとでも言うべき立ち位置で、常に存在感を放っているのがアカバ選手である。
史上もっともウィクロスの大型大会で優勝を重ねたプレイヤーを挙げるならば、ほぼ間違いなく彼の名前が浮上してくる。
関西、特に大阪近辺の店舗の歴史を紐解けば、あらゆる場所で彼の足跡を見ることができるだろう。

セレクターポイントの1位も、3位も、この大会を優勝するに申し分ない戦績を持つ、”最強の一角”であることに疑いはない。
誰もが勝ち進むにふさわしい。されどそれは、誰もが勝ち上がるということではない。次の試合に駒を進められるのは、2人のうち1人だけなのだ。
“最強の一角”から、唯一の”最強”を目指して。張り詰めた空気の中で、試合の幕が開かれる。

hyakko選手(サシェ-みこみこ/マキナ)vsアカバ選手(タマゴ-ノヴァ/ナナシ)

「くぅー」と小さく呻いたのち4枚の手札をマリガンしたhyakko選手だが、先手1ターン目の動きは澱みがなかった。
ゆっくりとファーストドローを済ませた彼は、《聖凶天 マスティマ》《羅星 レプス》とパワー5000ラインを場に並べてターンを終えると、静かに、腕を組む。

一方のアカバ選手は、1ターン目から《蒼天 ヘケト》でデッキトップを操作する最高の初手から動き始めた。
引きたいカード1枚が上に、今は不要な2枚のカードが下に。続けて《蒼魔 マノミン》が場に繰り出されると、手札破壊効果は発動されず、このターンはシグニ1点を詰めるのみでターンが渡る。
お互いが自分の手番をゆるりと進め、腕を組んで相手の手番を見張る。
そんな静かな展開は、白と青によるコントロール合戦ではよく見られる展開だと言える。

いや、言えた。ここまでは。

先手2ターン目。場の《聖凶天 マスティマ》をチャージしてグロウしたhyakko選手は、《悠久の使者 サシェ・クラフト》で追加するクラフトレゾナを長考したのち、攻勢に出た。
《マキナウィングスラッシュ》がまずは《蒼魔 マノミン》をバニッシュすると、続けて飛び出した《羅菌 オイゴナ》によって《蒼天 ヘケト》も溶かす。
黒の除去を大量搭載したhyakko選手謹製のサシェが、早速ここで火を噴いたのだ。
アカバ選手のライフに、サシェの下級シグニたちが殺到する。《羅星 レプス》のアタックにめくれたのは《蒼天 アウドムラ》
続く《コードメイズ ユキ//メモリア》のアタックでめくれたのは、不運にも回収対象がいない《サーバント #》
手札枚数の保持や《みこみこ☆きらっきら》への警戒を兼ねて《蒼魔 マノミン》効果を見送ったアカバ選手は、ここで3点を喰らいながら、回収バーストさえ不発するという大きな裏目を踏むこととなった。

「少し考えます」

先手2ターン目の3ダメージ貫通、《サーバント #》1枚分の損失。襲い掛かってくるそんな不運とも上手に付き合わねばならないのが、ディーヴァセレクション。
アカバ選手はエナを手札から置いてタマゴをLv2にグロウさせると、続けてアシストのナナシを《ナナシ・探索》にグロウさせ《蒼天 ヘケト》《大装 ゲイヴォルグ》を回収する。
再び出てきた《蒼天 ヘケト》がデッキを上1枚・下2枚で操作し、続けて《蒼天 ガギエル》で今しがたデッキトップに置いたカードを手札へと納める。
続けて《ナナシ・ご選択》までアシストのレベルを引き上げると、彼は速やかにウイルスをひとつ使って相手の《羅菌 オイゴナ》をバニッシュした。

ゲームは、大きく動く。
hyakko選手がひと足先にダメージを通してきた分だけ、アカバ選手もダメージレースを進めなければ間に合わない。攻撃を止める手段が豊富なサシェ相手なら、なおさらのことだ。

彼はまたしても《蒼魔 マノミン》を場に出し、ここでも手札破壊効果を宣言せずアタックフェイズへと入る。
開けたシグニゾーンの1点からは、バーストなし。続くタマゴによるルリグアタックが……ガードされずに突き抜ける!
手札破壊をまったく行わず《みこみこ☆きらっきら》を働かせない。ガードを供給する余裕を与えない。アカバ選手の選択は、このルリグアタックで見事に成就したといえる。
これでどうにか、ライフは4対4。このマッチアップにおけるオーソドックスな流れより一歩ずつ早いダメージレースで、ゲームは本番のレベル3へと進んでゆく。

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場から《コードメイズ ユキ//メモリア》をチャージしサシェを《白夜の使者 サシェ・モティエ》へと進めたhyakko選手は、続けてマキナを《マキナリペア》へグロウさせてライフを1枚増やすと、サシェのゲーム1能力を宣言。
《コードアンシエンツ ファラリス》《羅星姫 ミュウ//メモリア》と盤面を黒のアタッカーで染め、ついでに《羅菌 アメーバ》を回収しながらアタックフェイズへと移った。

アカバ選手の手札にサーバントがなければ、相手のライフをここで危険域の2枚以下に押し込むことができていれば。hyakko選手はどれだけ楽だっただろうか。
しかし、《蒼天 ヘケト》《蒼天 ガギエル》という青の天使たちは、アカバ選手にしっかりと追加のガードをもたらしていた。《コードアンシエンツ ファラリス》の10枚落としはまだデッキをひっくり返すには至らず、このターンに刻まれたダメージは1点のみだ。

2ターン目の猛攻から一転。どうにか一息つけたアカバ選手は、センターを《ノンストップ Dr.タマゴ》へグロウさせたのち、ひとまず《スーパー・ヘルエスタセイバー》を発動した。
《大装 ゲイヴォルグ》《羅星姫 ミュウ//メモリア》《サーバント #》の3枚が、トラッシュから手札へと舞い戻る。

そこでアカバ選手の手が少し止まった。
このターンはアタックにエナが掛かってしまう以上、点数要求を大量に通す余裕はない。でももし《白羅星姫 フルムーン》がクラフトされていたら。要求をケチったところに《白羅星姫 フルムーン》の効果が直撃しようものなら、耐久値の差が響くこととなる。
3点要求がすべて通ったこと、hyakko選手がクラフトするレゾナを長考していたこと。様々な条件が、アカバ選手の一手の難易度を上げている。

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ゲームは困難な選択の連続だ。
アカバ選手は《大装 ゲイヴォルグ》《聖天姫 エクシア》《コードアンチ マドカ//メモリア》を立てて、盤面とリソースを固めることに決めた。
《大装 ゲイヴォルグ》《羅星姫 ミュウ//メモリア》のトラッシュ送りと1枚の手札追加、タマゴの自動効果で1枚の手札破壊と《コードアンシエンツ ファラリス》の凍結、そして手札破壊を行ったことにより《コードアンチ マドカ//メモリア》効果で手札1枚を1エナへ変換する。

hyakko選手は、公開領域にある《聖天姫 エクシア》の枚数と相手デッキ枚数を確認すると、そのルリグアタックを通してライフで受けた。
そのダメージすら、ガードがない必然のダメージなのか故意に受けたのか、通し宣言までの絶妙な時間で判断させない。hyakko選手の一挙手一投足、すべてがゲームを作り上げていく。

ライフ枚数は4対3。hyakko選手の手元には、すべてのピースとみこみこのアシストが残っている。攻撃の猶予は、まだまだある。
彼はルリグデッキに手をかけると、まずはクラフトレゾナの答え合わせとばかりに《白羅星姫 サタン》を場へ送り出した。
サシェの自動効果が勝手に発動して《聖天姫 エクシア》に反応し、今空いたばかりのシグニゾーンが攻撃不能ゾーンに指定される。が、サシェのそんな弱点も、当然織り込み済み。続けて《スーパー・ヘルエスタセイバー》から《コードメイズ ユキ//メモリア》込みの3枚を回収するとすぐさま場に送り出し、相手の《大装 ゲイヴォルグ》を横移動させることで対応してみせる。

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仕上げに《聖天姫 エクシア》の前に《聖天姫 エクシア》を設置し返し、相手トラッシュ確認後にその《聖天姫 エクシア》をサシェのパワー+2000対象に選択。再び1点要求の場を作りつつ、ガード込み手札6枚の状況でアタックフェイズに。
アカバ選手がこのアタックをまたも素通ししたことにより、タマゴを守るライフクロスはとうとう2枚以下の危険域へ突入することとなった。

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1ターン越しに、hyakko選手の《コードアンシエンツ ファラリス》が効いてくる。
《蒼天 ヘケト》でデッキを把握しながらドローを繰り返すことで、《ナナシ・ご選択》のウイルスを温存しながらフレッシュな解答を引っ張ってくる。ダメージレースに追いつく最高効率の挙動であるそれは、しかし、アカバ選手のデッキ枚数をリフレッシュ直前まで縮めてしまっていたのだ。

しかし、危険域に差し掛かった以上、アカバ選手に立ち止まる猶予は残されていない。
彼は、自身の残り少ないデッキをすべてひっくり返し、リフレッシュに入ることに決めた。《ウルトラスーパーヒーローズ》で2枚を手札に加え、《コードアンチ マドカ//メモリア》を出してから《ノンストップ Dr.タマゴ》のゲーム1能力を発動することで、手札破壊が絡んで《コードアンチ マドカ//メモリア》の効果がデッキを掘り切る。

そうするしかない理由があった。
リフレッシュ寸前のトラッシュをしっかりと見てみれば、そこにサーバントが4枚すべて眠っている。そしてここまでのゲームで、アカバ選手の公開領域に《聖魔姫 オロチマル》などのサーバント回収手段は見えていない。
その状態で無駄にデッキを残して、相手にリフレッシュでもされようものなら、確実にガードが途切れてしまう。自分からリフレッシュに入って再度デッキを引きに行くのが、彼にとって間違いなく最善の行動になっていたのである。

と同時に、彼を今まで縛っていた呪縛も解かれた。
《ノンストップ Dr.タマゴ》のゲーム1能力で相手の手札を2枚捨てさせた以上、もう《みこみこ☆きらっきら》で大量ドローされるのは確定事項。
彼はウイルスでhyakko選手の《コードメイズ ユキ//メモリア》をバニッシュすると、お返しとばかりに自分の《コードメイズ ユキ//メモリア》の移動効果で相手の《聖天姫 エクシア》による攻撃制限を無力化。そして小粒なシグニたちをリムーブしたのち、とうとう《幻水神 ホタルイカ》《蒼魔 マノミン》の大型手札破壊パッケージを場に送り込み、元々場にいた《大装 ゲイヴォルグ》と合わせて2枚ドロー2枚手札破壊の状況へと持ち込んだ。

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予定調和と言わんばかりに、hyakko選手が《みこみこ☆きらっきら》にグロウさせる。hyakko選手のデッキを2枚という薄さまで減らしつつも、手札破壊された分の手札を一気に立て直す。
ライフバーストはなく、《大装 ゲイヴォルグ》の効果で《白羅星姫 サタン》もしっかりと処理され、次ターン始めのhyakko選手のリフレッシュ込みでライフは2対1。

ふと、「そうか」とhyakko選手の呟きが聞こえる。
その呟きと、リフレッシュでhyakko選手のライフから落ちた《サーバント #》が、両選手のゴール地点への近さを明確に予感させた。

時間がないのは、2人とも一緒だ。
hyakko選手は、《羅菌 オイゴナ》を場に送り出して《蒼魔 マノミン》をバニッシュし、続けて《聖魔姫 オロチマル》を場に立てる。
《聖魔姫 オロチマル》をサシェで強化して《ご選択》の除去範囲から逃がすと、手札を使い潰してしまうという恐怖を振り切り、アタックフェイズ開始時の《聖魔姫 オロチマル》効果で手札を3枚捨てた。

アカバ選手の《大装 ゲイヴォルグ》が除去され、2面が開く。

ゲームは困難な選択の連続だ。
ここまでグロウしていないことにより、アカバ選手のノヴァが《ノヴァ=ミュート》採用のアシストラインであることだけは透けている。
だから、1面要求だけだと絶対に「このターンで勝利をちらつかせる」という最大値を取ることだけはできない。
けれど、2面要求なら。
アカバ選手が《サーバント #》を引き込めていなかったなら、相手のノヴァをLv2まで無理矢理乗せることができ、しかも大きくリソースを吐かせながらライフを0まで追いやれる。
たとえ《サーバント #》を引き込めていたとしても、1枚残ったライフが防御できるバーストでない限り《ノヴァ=ミュート》までは使わせられる。
hyakko選手の選択は、手札を捨て去るリスクを負いつつも勝利への推進力を得る、力強い選択であった。

なのに。そこまでしてなお、”夢限少女杯”は、走者に楽をさせなかった。

アカバ選手の宣言は、攻撃の素通し。
となると当然、ライフからは防御バーストが飛び出すし、アカバ選手の手札からは《サーバント #》が姿を見せる。

「マジか……!」

hyakko選手の呻くような一言が、息苦しそうに響く。
万全のリソース量で、アカバ選手にターンが移る。

アカバ選手の手が、一手、一手、動き出す。
《蒼天 ガギエル》が手札を入れ替え、そこに《凶魔 アンナ・ミラージュ》が乗ってhyakko選手の《羅菌 オイゴナ》を溶かす。
hyakko選手の《聖天姫 エクシア》が除去されたシグニゾーンの正面をアタック不可ゾーンへと書き換えたら、追加で出て来た《コードメイズ ユキ//メモリア》《聖魔姫 オロチマル》を移動させてアタック不可を無効化する。

けれども、シグニゾーンでの要求は、それ以上続かなかった。
最初に不発の《サーバント #》バーストがめくれてなおルリグアタックを全弾阻止し、相手の《聖天姫 エクシア》も確実に無力化し、ダメージレースを押し通したアカバ選手。彼の手札から、これ以上ダメージを通す手段が出てこない。
“そこまでしてなお”は、両者に等しく訪れたのだ。

最後に彼は不要なシグニをリムーブし、《幻水神 ホタルイカ》《大装 ゲイヴォルグ》《蒼天 アウドムラ》と並べる。
次のターンをも守りうる《サーバント #》を引き込みに行き、このターンはシグニとルリグでhyakko選手のライフをすべて割り切る。それが、アカバ選手がこの状況から勝ちに行く、唯一の手段だった。

0対0のライフで、hyakko選手へとターンが渡る。

息も詰まるようなアカバ選手のターンを乗り越えて。hyakko選手が、意を決したようにルリグデッキに手を伸ばす。
ディーヴァグランプリ3rdの時も彼を支えた《ウルトラスーパーヒーローズ》が、彼に2枚の手札をもたらす。そして、前のターンになんとか温存できた《みこみこ☆ずばしゃーん》が、手札3枚を対価に、アカバ選手からガードを奪わんと襲い掛かる。

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晒された手札の中に――《サーバント #》は、1枚のみ!

hyakko選手が、最後のアタックへ早足で向かう。アカバ選手は、攻撃を防ぎきれないことを悟り、その身で最後の一撃を受けた。


勝者:hyakko選手


「ライフも把握できてたし、勝てるようにプレイを進められていた」。悔しそうに振り返るアカバ選手に聞いてみれば、やはりもっとも辛い”ブレ”は2ターン目。シグニによる3点が貫通した、あのタイミングだった。
互いに困難な選択を乗り越え、相手を追い越すための正解を探り続けても。いや、探り続けるからこそ、微かな相性差や運の天秤の揺れがゲームを大きく左右しうる。この試合のように。

そして、結果として生まれた勝敗が、この大会のすべてだ。
揺れ動くシーソーゲームを制したhyakko選手は、始まったばかりの夢限少女杯本戦を、まだ駆け上がっていく。

タカラトミーモール